ことばの波止場

Vol. 4 (2018年9月発行)

著書紹介 : 通じない日本語 ―世代差・地域差からみる言葉の不思議―

窪薗晴夫

平凡社新書 2017年12月

通じない日本語
『通じない日本語』書影

本の帯や表紙の宣伝文句は軽視されるが、出版社で何をウリにしたかが分かるし、書店で手にして買うきっかけになる。この本の帯では「パンツはいて…」「マクっていい…」というきわどい例文が書いてある。「言葉の変化/進化の裏に…法則…」は記述の態度を示す。表紙の「世代差・地域差…」は内容の2部構成を示している。これらのキャッチフレーズの効果は売行きに響く。調べてみたら、発売以来コンスタントに売れている。中身もいいからだろう。

新書だから新しい情報を期待したい。読んでみると、最近の言語変化や方言差についての多くの実例があがっている。

長年の研究で丹念に集めたものがあり、国立国語研究所の研究成果『日本言語地図』『新日本言語地図』を活用した事項もある。言葉の専門家から見ると、音声に関わる部分がことに面白い。「雰囲気」が「フインキ」になるのは、「単語の末尾が長音節+短音節だと安定するからだ」と論じる部分と、アクセントの地域差を説明する部分は、著者の本領が発揮されている。国立国語研究所の研究を分かりやすく紹介する手ごろな1冊である。

▶井上史雄(東京外国語大学名誉教授)