ことばの波止場

Vol. 6 (2019年9月発行)

著書紹介 : コミュニケーションの方言学

小林隆 編
ひつじ書房 2018年5月

コミュニケーションの方言学 書影
『コミュニケーションの方言学』 書影

コミュニケーションのしかたにも土地の文化・社会に根ざした地域差があり、全国一律ではない。例えば私が関西で衝撃を受けたのは、中学校の入学式直後の教室で新入生男子が先生にツッコミを入れる姿だった。初対面の目上を即興でイジって笑いをとる言語行動がアリなのか! この生徒は確実に教室内の主導権を握って威信を得、先生もとがめはせず、手を焼きつつもテンポよく応じていた。

コミュニケーションのとり方の背後には地域の人々の「ことば」の捉え方や発想法が存在し、地域差となって顕れる。本書は、編者らが『ものの言いかた西東』(岩波新書)などで指摘してきたこうした地域差について、方言学としてさらに研究を切り拓きその魅力を伝える論文集である。挨拶や「断り」などの言語行動や談話の分析だけでなく、対人調整と敬語使用、話者交替、あいづちやフィラーなど、さまざまな切り口の論考がずらりと並ぶ。またボケとツッコミといった掛け合い型談話や「させてもらう」など、関西の特徴的な事象の歴史的研究も盛り込まれ、冒頭のような例を広い視野で捉える道案内もしてくれる。同時刊行の『感性の方言学』(ひつじ書房)とともに、読者を方言と文化・社会の濃密な世界に誘ってくれることだろう。

▶舩木礼子(神戸女子大学)