国語研の窓

第3号(2000年4月1日発行)

ことばQ&A

「お湯を沸かす」?「水を沸かす」?

質問

ボランティアで日本語を教えています。学生が「水を沸かす」と言ったので、「お湯を沸かす」と訂正したら、「先生、どうして『水を沸かす』はだめですか?」と聞かれ、うまく答えられませんでした。どのように答えたらいいですか?

回答

「を」には2種類の働きがあります。(a)「ボールを打つ」と、(b)「ホームランを打つ」、とを比べてみましょう。(a)でボールは、打つ前からそこにありますが、(b)では打った結果がホームランになるわけで、最初からホームランというものがあるのではありません。

「料理を食べる」の場合、料理は食べる前からあるので(a)です。一方、「料理を作る」は、作った結果が料理になるので(b)です。

このように、単に何かに働きかける場合には(a)の「を」を使い、働きかけた結果何かになるという場合には(b)の「を」を使います。どちらの「を」が使えるかは動詞の意味によって決まりますが、「打つ」のように両方の「を」が使える動詞もあります。

さて、御質問の「沸かす」はどうでしょう。「お風呂を沸かしたけれど、まだ熱くならない」とは言えません。つまり、「沸かす」は、液体に熱を加えるだけでなく、熱を加えて「熱くなる」という結果までを意味しているのです。したがって、「を」の前には、熱くなった結果である「お湯」や「お茶」、「お風呂」などのことばが来て、熱くなる前の状態である「水」は来ないのです。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。