第12号(2002年7月1日発行)
現代人は昔に比べて早口になったと言われています。ニュース番組を聞いていても,民放のアナウンサーなどかなり早口になったという印象を持たれる方も多いのではないでしょうか。早口化は,日本国内に留まらず世界的に見られる現象のようで,せわしない現代社会と関連づけて説明されることが多いようです。
さてこの早口ですが,相手にどのような印象を与えるのでしょうか。早口というと,「せかせかしている」「落ち着きがない」など,あまり良くないイメージがどうしてもつきまとうように思います。しかし,国立国語研究所で行なっている話し言葉研究の中で,早口が必ずしもマイナスのイメージばかりでないことが徐々に分かってきました。
例えば話し方に対する印象として,発話の速い人の方が,より流暢で表情豊かに感じられるのに対し,遅い場合にはたどたどしく単調に感じられる,という統計的な傾向が見られます。また発話の速さは,話し手自身に対する印象にも影響を与えるようです。発話の速い人の方が,より自信があるように感じられる,若々しく元気があるように感じられる,といった傾向が見られました。
このように早口は,単なる現代社会における「悪癖」ではなく,活動的で生き生きとした印象を与える話し方として,多くの人々に受け入れられていると言えそうです。
もちろん,速ければ速い程,聞き手に良い印象を与えるというわけではありません。一定以上の速さになると,一転して否定的な印象を与えることも分かっています。極端な早口はやはり良くないということです。また,早口の方がよりリラックスした印象を相手に与えるといったように,発話のスタイルにも関わってきます。相手や場に応じて表現を使い分けるように,発話の速さにも少し気を配る必要があると言えそうです。
(小磯 花絵)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。