国語研の窓

第27号(2006年4月1日発行)

ことばQ&A

「お疲れさまです」

質問

職場で若い人が早朝一番のあいさつやメールの書き出しに「お疲れさまです」を使うことが多くなっていて気になるのですが。

回答

仕事上のつきあいや事務的な連絡であっても,何かあいさつ言葉がないと失礼になるのではないかという配慮が働くものです。

本来「お疲れさま」は「ご苦労さま」と同様に,「労をねぎらう」という行為から発する言語行動であることから,上の者が下の者に使う表現とされてきました。確かに,これまで年齢や職階など,目上・目下の縦の人間関係を軸にする社会では,使う場面をわきまえないと問題になる表現の一つでした。

しかし近年,例えば1998年に国語研究所が調査した東京都民(20~70歳)1,000名余りの回答によると,「お疲れさまでした」を上司に使うことに肯定的な評価をする人は9割近いという結果になっています。そのうち,20代~40代ではどの世代もほぼ同率(9割前後)なのに対して,50代以上の支持率が若干下がる傾向があります。また,男性より女性のほうが肯定的な回答が多いことがわかります。ですから例えば50代の男性と,20代の女性では年齢や性別による受け取り方の違いがあると言えるでしょう。

同じ調査で「ご苦労さまでした」の使用が3割の支持であるところからも,「ご苦労さま」にはまだ目上の者が目下の者に使うという意識が強い一方で,「お疲れさま」は使いやすいあいさつ言葉になっていると考えられます。

最近では,派遣会社の社員研修などで職場の常套(じょうとう)的なあいさつ言葉として,「お疲れさまです」を教えていると聞きます。朝会ったばかりの人やメールの書き出しに必ず使う,ということのないよう,状況を考えて場面により使い分けることが必要です。出先から戻った同僚に気持を込めて「お疲れさまでした」と言えば,疲れも癒(いや)されるということではないでしょうか。

(塚田 実知代)

※この欄は,当研究所に実際に寄せられた「ことば」に関する質問にもとづいています。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。