第32号(2007年7月1日発行)
第31回「ことば」フォーラムが3月24日(土)午後,同志社大学との共催でキャンパスプラザ京都で開催されました。参加者は76名でした。
前半は次の3件の講演がありました。
(1)同志社大学の橋本和佳氏は「新聞の外来語・外国語」を調査し,新聞社説で使用された外来語の90年間の変化を中心に解説されました。その中で,外来語が大正から現代にかけて,グラフ上ではS字カーブを描くように急激な増加からゆるやかな停滞へと変化していることから,将来は大きくは増加しないのではないかと予測しました。
(2)大阪大学の石井正彦氏は「テレビの単語使用-外来語を中心に-」という題で,国立国語研究所が1989年4~6月のテレビ放送を対象として行った語彙調査(「テレビ放送の語彙調査」)に基づいて解説しました。番組ジャンル別ではスポーツ系,音楽系,バラエティー系で外来語の使用が多いが,使われている外来語の3分の2は中学生向けの国語辞典に載っているもので,残りの3分の1は使用頻度の少ないものであることがわかりました。
(3)国立国語研究所の伊藤雅光は「J-popの外来語・外国語」について,中島みゆきと松任谷由実が,この約30年間で発表してきた全歌詞それぞれ300曲,3万語以上を調査し,どちらも1985年ごろから外国語の使用が増加するが,2000年以降はともに減少するという同じ増減パターンを示していることを報告しました。
フォーラムの後半に行われた参加者との質疑応答では,「外来語の使用量がそれほど多くないのに,なぜ外来語が氾濫(はんらん)していると言われるのでしょうか」という質問に対しては,「外来語はカタカナが使われるため,漢字仮名交りの文章のなかでは目立つだけではなく,その文章のキーワードとなっていることが多いので,印象に残りやすいからでしょう」という応答がありました。また,「テレビの調査は20年ほども前のものですが,今テレビを調査すると結果はどうなると思いますか」という質問に対しては,「今はテロップが多用されるようになりましたので,多少難しい単語が使われても理解しやすくなっています。その点を考えてもかなり異なった調査結果になるのではないかと推測しています」という応答があるなど,外来語と外国語に対する関心の高さがうかがわれました。
ディスカッションではa)外来語が新鮮さを失うと,外国語の使用が増加するため,将来は外来語よりも外国語の方が大きな課題となりうるのではないかという予測や,b)最近の若いシンガーソングライターの歌詞では,むしろ外国語を避けて,和語と漢語を主体にしたものが多くなっており,J-popでは外国語使用がピークを過ぎて,若者の日本回帰現象が起こっているのではないかという意見などが交わされ,テーマをさらに深めていくことができました。
(伊藤 雅光)
第31回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/31/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。