国語研の窓

第35号(2008年4月1日発行)

文字さんぽ

戸籍の電算化と漢字

戸籍に使うことができる文字は,法務省民事局長通達によって決められています。具体的には,常用漢字,人名用漢字,漢和辞典に載っている文字などです。子どもが生まれると名前をつけますが,このときには常用漢字と人名用漢字の中から文字を選ばなくてはなりません。わが子の名前にこの文字を使いたいという希望は多くあって,昭和26(1951)年以降,人名用漢字は徐々に増えてきました。平成16(2004)年に488文字を人名用漢字に追加したのは記憶に新しいことです。名づけに使える漢字は,現在2,928文字です。

しかし,戸籍には,いわゆる下の名前だけでなく,苗字や住所も記載されます。そのため,常用漢字と人名用漢字の「名づけの漢字」だけでは足りません。例えば,「椙」は苗字にも地名にも使われますが,常用漢字でも人名用漢字でもありません。そこで,そのような文字を扱うために,漢和辞典に載っている文字ならば許容というルールができたのでしょう。そして,戸籍事務の世界では,漢和辞典に載っていない文字は「誤字」として扱われます。

さて,明治以来,戸籍は紙の上に手書きやタイプライターで記載してきました。しかし,この方法では,作成・修正・証明書発行に時間がかかり,事務効率が悪いものでした。そこで,平成6(1994)年に戸籍法の一部を改正し,戸籍事務の電算化(コンピュータ処理)を可能にしました。事務処理のスピード化と,窓口サービスの向上が目的です。

これを受けて,各地方自治体では,戸籍事務を電算化するために,紙の戸籍をコンピュータに入力する作業が進められています。紙の戸籍では,行書や草書,あるいは書き癖などで,漢和辞典とは異なる字形,つまり戸籍事務の世界での「誤字」で記録されていることが少なくありません。そこで,戸籍をコンピュータに登録するに当たり,「誤字」を改めることが行われています。「誤字」を改める場合は,自治体から本人に通知して同意を求めます。また,書きかえられる「誤字」の例(図参照)をWebページに掲載し,住民に協力を求めている自治体もあります。

図:書き換えられる「誤字」の例
図:書き換えられる「誤字」の例

名前の文字にはこだわりがあると言われています。けれども,コンピュータの時代だから仕方がないと,文字の書きかえに応じた人のほうが,はるかに多数を占めるようです。

(高田 智和)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。