ことばの疑問

履歴書の助数詞

2012.11.01 山田貞雄

質問

履歴書を数えるとき、1通2通とするか、1枚2枚とするか、1葉2葉とするか、仕事で求人要項の原案を書いていて迷いました。他社のものを参考にしようとしたら、いろいろあるのですが、これらには、そもそも遣い分けがあるのでしょうか。

回答

ここでは、「今日は、履歴書を10枚以上書いた。」でもよいが、「そのうち3通を郵送した。」とするのがよい、というのが回答と言えるでしょう。

数そのものを表わす言葉に添えて、ものやことがらを数えるようにする言葉を助数詞といいます。小学校や中学校の入学試験に、豆腐やラーメンの一人分を「丁」で数えるといった、日常の生活常識の範囲以上に、大人でも知らないような助数詞の問いが出題されたこともあるそうです。

そもそも「通(ツウ)」は、漢字や漢語の世界で、手紙や文書・書類を数える言葉としてあるもので、日常では、手紙やはがき、あるいはメールや応募アンケート、放送希望楽曲のリクエストなどにも使っています。

一方、写真や名刺などを個々に数える「葉(ヨウ)」は、「通」と同様に漢語で、手のひらに隠れる程度の、小さな紙きれなどを数えることが多く、日常では、証明写真やはがき、あるいは本のページの表裏などにも使っています。

では「枚」はどうか、というと、おおむね平らな形状のものなら、材質や大きさ、厚さを問わず、何にでも「枚」が使えるように思われます。日常では、切手のようなものにも、布団や田畑にさえ使うことがあります。同じ音読みの漢語ですが、「通」や「葉」のような改まった文章語という感じはなく、話し言葉でも盛んに使っています。

このように見てくると、これらは、必ずそうしなければならない、といった相いれない三者択一ではなく、それで数えると、より「しっくりくる」「ぴったりだ」、という傾向のあることが分かります。すなわちこれらの遣い分けは、日常的には、定義や法律、規則などに縛られることなく、「そうよべば丁度いい」「長年この場合はこう言ってきたのだ」、という言語にまつわる文化や伝承とも言えるでしょう。

話はすこし脱線しますが、蝶を「頭(トウ)」と数えることが知られています。これはもともと、アマチュアコレクターの間で、独得の言葉遣いであったらしく、専門家は「個体」を付けて論文を書いているそうです。(国立科学博物館分館のお話による。)これらが、一般にも知られるようになったせいでしょうか、「かぶと虫はどうか。」とか、「蝉も『頭』と数えるのか。」「羽が生えて空を飛ぶから『頭』とよぶのか。」などと派生した質問まで寄せられます。

また、すでに日本語に関する流行や、新しい傾向を述べたものに取り上げられていることですが、近年、学年や年齢を「コ(個)」で数える人が増えています。例えば「先輩は私より『2こ』上ですよね。」という言い方をする人がいるのです。

これらをみると、もともとの漢語や漢字の用法とは別に、限られた社会での特殊な言い方が伝えられたり、あるいは、世代や年代によって違う助数詞を使ったりする現象も生じるのです。

さて元の質問に戻りますが、「証明写真1葉を表にはって、表裏1枚の指定の様式による履歴書を1通、人事課まで郵送してください。」のように、同時に遣い分くべき場合を想定すると、一つひとつの遣い分けの判断も、容易になるのかもしれません。

書いた人

山田貞雄

YAMADA Sadao
やまだ さだお●伝統的な日本語学(旧国語学)を勉強したのち、旧図書館情報大学では、写本と版本の二種によって、『竹取物語』を読みとく授業や、留学生のための日本語・日本事情を担当。その後、国語研究所では、「ことば(国語・日本語・言語)」に関する質問に回答してきました。日常の言語生活や個々人の言語感覚が、「ことば」のストレスにどう関わるか、そこに “言語の科学”は、どこまで貢献できるか、が、目下最大の興味の的です。

参考文献・おすすめ本・サイト

飯田朝子・町田健『数え方の辞典』(小学館2004)