日本語の授業では、同じ国の学習者で構成されるクラスと、さまざまな文化的な背景を持つ学習者で構成されるクラスとで日本語の教え方は変わりますか。

日本国内で日本語を教える時は、それほど変わりはありません。基本的に日本語を日本語で外国人の学習者に教える点では同じだからです。英会話スクールで、ネイティブの先生が英語で直接教えるイメージをしていただけると簡単に想像がつくかと思います。
ただ、日本国内での日本語の授業は18歳以上の基礎教育を終えた方が、仕事のためや生活のために日本語を勉強していることが多いです。ですから、子供がたくさんの“日本語のシャワー”を浴びながら、自然環境の中で身に付けていくのと、大人が第二または第三の外国語として日本語を勉強していくのとでは、少し状況が異なります。日本語を勉強することを私たちの英語学習に置き換えてみた場合、もしクラスメート全員が日本人で、少しわからない言葉や表現が出てきたら、日本語で説明してもらったほうが、すんなり意味を理解し、腑に落ちることも多いでしょう。

そのため、クラス内が同じ国出身の学習者で構成されている場合は、媒介語と呼ばれる学習者の母語(例えば、中国大陸出身者であれば北京語とよばれる中国語、中南米出身者であればスペイン語など)を一部使うことも可能だと思われます。私の日本語教師としての経験上、そのほうが成人学習者の日本語への理解を促進する場面も多々見られました。一方、多文化の学習者の場合は、できるだけ日本語で授業を続けますが、どうしても理解していないと思われる部分があれば、多言語に対応した語彙表や文法書を使って(学習者が英語を解する場合は英語のものを用いることもあります)、同じだけの情報量を全ての学習者に提供していくことも良い方法だと思われます。
そして、授業内容にも多少の工夫が必要です。例えば、同じ国の出身者であれば、文化的背景が同じ場合が多いこともあり、その国や文化などについて深く詳しく話してもらったり書いてもらったりすることが可能です。一方、多文化の学習者から構成される場合は、一つの国だけ取り立てて話をしていくことはできませんから、学習者の国それぞれについて比較するのが良い方法でしょう。もちろん日本と学習者の国の比較でも可能です。なお、授業テーマとして、政治や宗教など、個人の信条とかかわるようなものを使って比較するのは、心理的な衝突を起こしやすく、あまり授業中には取り上げないほうがよいとされています。
このように見てみると、多文化の背景を持つ学習者のクラスで日本語を教える際、言葉は学習者の母語は使えず、テーマにも文化的な配慮が必要であり、日本語のクラス運営が大変だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、いろいろな国にルーツがある学習者が集まっているからこそ、クラスに多様性が生まれ、文化の“化学反応”を起こせるという利点もあります。ですから、教師は積極的に、学習者自身の国や文化について、日本語でほかの国出身の学習者に説明するような内容を盛り込めば、お互いの背景を知り、自分の国との比較をする中で、ほかの国への興味がわき、また相手の文化を知りたくなるという相乗効果が得られる可能性があります。つまり、多文化のクラスでは、日本語の学習を通じてコスモポリタンを育成することも可能になるわけです。

ここで、私が実践した例を簡単にご紹介します。まず、多文化クラスでは、学習者自身が観光大使になったと仮定して、自分の出身地の紹介をするプレゼン大会を行いました。その時は、授業後も学習者同士でその話題が続くほど盛り上がっていました。また、全員中国出身者のクラスでは、日本と中国の義務教育の制度を発表したあと、それぞれのメリット・デメリットについても考え、最後にディスカッションを行い、両者の制度について意見交換をしました。学習者からは、今回の活動は自分の国の制度をより深く調べるいい機会となり、結果として自国の制度を俯瞰的に捉えることができたとのコメントをもらいました。
以上をまとめると、同じ国の学習者のクラスでも、多文化の学習者のクラスでも、日本語を日本語で教えるという点では基本的に同じですが、学習者の構成によっては、学習者の母語や英語を用いることもあります。また、自分の言いたいことを日本語で言えるようになることを目標に据え、同じ国の学習者の場合は、より深く詳しく日本文化と比較し、多文化の学習者の場合は、複数の文化を広く取り入れ、視野を広くする授業内容に広げていくと、効果的な授業ができるようになると思われます。