ことばの波止場

Vol. 2 (2017年9月発行)

著書紹介 : 所有表現と文法化 ―言語類型論から見たヒンディー語の叙述所有―

今村泰也

ひつじ書房 2017年2月

所有表現と文法化 ―言語類型論から見たヒンディー語の叙述所有―
『所有表現と文法化 ―言語類型論から見たヒンディー語の叙述所有―』書影
北インドを中心に話されているヒンディー語(Hindi)は話者人口の数で世界のトップ5に入る大言語である。しかし、日本では認知度が低く(いまだに「ヒンズー語」と間違って呼ばれる)、文法書や学習書はいずれも初級レベルにとどまっている。本書はこれらの語学書と一線を画す初めての本格的な研究書であり、世界的に見てもレベルの高いものである。本書の研究対象は“I have a car.”、“She has two brothers.”のような叙述所有の表現である。文法書では数ページの説明で終わる項目であるが、本書は50以上の言語の例を挙げながらヒンディー語の6つの所有表現を詳細に考察し、所有をめぐる言語の普遍性と個別性を明らかにしている。また、第6章では所有から義務への文法化について論じている。

本書が理論的枠組みとして依拠しているHeine(1997) Possessionではアジアの言語はあまり扱われていない。そのため、本書の記述はアジア(インド)の言語の事例研究としてHeineの研究を補完するものであり、類型論研究や対照研究にも役立つ。

本書は日本のヒンディー語研究の先頭に立つ業績として、次世代の研究者の指針となることは間違いない。

▶プラシャント・パルデシ(国立国語研究所)