ことばの波止場

Vol. 7 (2020年3月発行)

著書紹介 : 学習者コーパスと日本語教育研究

野田尚史・迫田久美子 編
くろしお出版、2019年5月

学習者コーパスと日本語教育研究
『学習者コーパスと日本語教育研究』書影

本書は「第8回日本語実用言語学国際会議」(2014)のパネル発表を中心とする論文集で、日本語学習者コーパスを利用した習得研究の最前線が示されている。第1部では新しいコーパスとして、日本語発話を書き取らせたディクテーションコーパス、日本語文を読んで理解した内容を母語で語らせた読解コーパス、日本統治下のパラオで日本語を学んだ話者の発話を集めたコーパスが紹介される。

第2~4部では各種の既存コーパスの分析をふまえ、(1)口頭能力試験(OPI)の超級発話は「こう」や「っていう」等の語彙使用に特徴付けられる、(2)使用語彙による習熟度推定は話し言葉より書き言葉のほうが難しい、(3)「てみる」等の機能表現の使い方に関して母語話者との差は後接部に見られる、(4)原因理由を主題にする場合に主述の捻じれが起こりやすい、(5)作文では発話より複雑な文法が使われるが発話時の誤用がすべて消えるわけではない、(6)可能形について幼児は単純形→複雑形の順で、成人第二言語学習者は逆順で習得するといった興味深い知見が報告されている。

各章とも記述は平易で初学者にも読みやすい。日本語の習得研究や学習者コーパス研究に関心を持つすべての読者に推薦できる良書である。

▶ 石川慎一郎(神戸大学)