ことばの波止場

Vol. 9 (2021年3月発行)

広がる関西弁~国語研の調査データを使ってみよう~ 「国民の言語使用と言語意識に関する全国調査」のデータ公開

広がる関西弁~国語研の調査データを使ってみよう~「国民の言語使用と言語意識に関する全国調査」のデータ公開

国語研の社会調査研究

国立国語研究所では創立より社会調査による研究を数多く行っています。新聞の世論調査のように大量の人々に対して行う調査で,所員が調査を担当することもあれば,調査会社に委託することもあります。代表的な調査としては,山形県鶴岡市で1950年から約20年おきに4回実施している「鶴岡共通語化調査」や,世界28か国で3万人以上の人を対象とした「日本語観国際センサス」などがあります。これらの調査結果は報告書や論文などで見ることができますが,結果を自分で検証してみたいという人もいるのではないでしょうか。国立国語研究所研究情報発信センターでは,これまでの調査データを公開しており,自由に利用することができます。ここでは,最近公開された「国民の言語使用と言語意識に関する全国調査」のデータの分析例を紹介します。

関西弁の広がり

テレビやインターネットでは方言の話題を多くみかけます。伝統的な方言は衰退する傾向にありますが,地域の言葉の違い自体はこれからも保たれるでしょう。共通語の発信源ともいえる東京の言葉の影響力は絶大ですが,第二の都市である大阪の影響も見過ごせません。実際,大阪から東京に入ってくる言語現象は数多くあります。近年では「めっちゃ」が代表格といえます。2000年頃は東京の人がよく知っている関西弁の代表として「めっちゃ」が挙がっていました。2010年頃には全国の若者に普及し,現在では「めっちゃ」が関西弁だと思わない若者も多いようです。そのくらい一般的になっています。

「おかん」「おとん」の広がり

「国民の言語使用と言語意識に関する全国調査」でも,関西弁の広がりに関する調査項目があります。

2009年3月時点で20歳から79歳までの男女を対象に,全国73地点925人対象とした調査です。各都道府県で原則として10歳刻みに6世代,男女がそろうように設計されており,世代別,性別の各都道府県での言葉の使用をみることができます。

調査項目に関西弁の親族呼称として有名な「おかん(お母さん)」「おとん(お父さん)」があります。最近は関西以外でも聞かれるようになりました。集計結果をみてみましょう。他の地域から移住した人が入ると分かりにくくなるので,主に小・中学校時代に最も長く住んだ都道府県が,調査時点で住んでいる都道府県と同じ人を「地元出身者」とみなし,この人々の回答を集計しました。また,世代は20年ごとに区切り,3世代を地域別に集計しています。

「おかん」「おとん」のグラフ

左は「おかん」,右は「おとん」のグラフで,若干「おかん」のほうが多く使われているようです。西高東低で,近畿地方を中心に山ができており,離れるほど使用率が低くなっています。1970~80年代生まれの人の使用者が多く,他の世代は低いといえます。もともと近畿地方でも一部で使用されていた「おかん」「おとん」が,近畿地方での使用が増加するとともに,周辺地域へと広がっているようです。

「なんでやねん」の広がり

別の言葉を見てみましょう。相手が変なことを言った(ボケた)ときに,それに対して「なんでそうなるんだ」「なんだそれは」のように注意することを「ツッコミ」といいます。漫才などでよく見るものです。関西の人以外でも見られる言語行動ですが,関西のお笑いの影響もあってか,関西以外の人が「ツッコミ」をするときに,関西弁の「なんでやねん」(「役割語」と呼ばれる)を使う人も多いのではないでしょうか。

地域と生年からみるなんでやねんのグラフ

「国民の言語使用と言語意識に関する全国調査」では,相手の言ったことに対して「何でやねん」と言い返すことがあるか,という質問をしました。さきほどと同じように集計結果をグラフであらわすと,西高東低ですが首都圏の山は大きく,また,近畿地方の中も世代ごとに増加していることがわかります。

なんでやねん!の使用を日本地図に記したもの

そこで結果を地図で示してみました。「地元出身者」の回答を地点ごとに示した地図のことを「言語地図」といい,方言研究で用いられています。世代別の地図をみると,「なんでやねん」が1920~40年代生まれでは主に近畿周辺だったのが,1950~60年代生まれになると首都圏で急増し,1970~80年代生まれでは全国に広がっています。将来,「めっちゃ」のように,「なんでやねん」も関西弁と意識されなくなるかもしれません。

自分でデータを加工してみよう

これまでの説明を見て,「性別による違いを知りたい」「世代や地域の分け方を変えたい」などと思った方もいるでしょう。こうしたグラフや地図は,調査結果のデータを自分で加工して作ることができます。国立国語研究所研究情報発信センターでは公開データにライセンスを明示して,データ利用の促進をはかっています。「クリエイティブ・コモンズ表示4.0ライセンスCC-BY」と表示されているデータは,国立国語研究所のデータであることを明記をすれば,複製,再配布,改変といった,どのような目的でも使用可能です。「国民の言語使用と言語意識に関する全国調査」のデータもCC-BYです。自由に使用して役立てていただければと思います。

国立国語研究所研究情報発信センター配布コンテンツ(https://mmsrv.ninjal.ac.jp/
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(https://creativecommons.jp/

(国立国語研究所・プロジェクト非常勤研究員/鑓水兼貴)