国語研の窓

第26号(2006年1月1日発行)

第28回「ことば」フォーラム報告

第28回「外来語の過去・現在・未来」

第28回「ことば」フォーラムは,「外来語の過去・現在・未来」と題して,11月5日(土)13時30分から16時まで,名古屋国際センター・別棟ホールにて開催されました。当日は晴天に恵まれ,参加者は150名を数えました。

今回のフォーラムでは,作家の清水義範氏,名古屋外国語大学長の水谷修氏をゲストに迎え,国語研究所長の杉戸清樹を加えた3人で,講演と全体討議を行いました。3人とも名古屋市内の出身ということで,とても和やかな会になりました。

第28回「外来語の過去・現在・未来」01

最初に,3件の講演がありました。

  1. 杉戸清樹は, 「暮らしの中の外来語―その 光 と陰〉―」と題し,外来語が持つ光〉と陰 の側面について述べました。光〉の側面として「暮らしのための言葉が豊かに充実する可能性が広がる」という点を,一方,陰〉の側面として「言葉の伝え合いを妨げる恐れをいつも持っている」という点を挙げました。その上で,古代から現在まで日本語を育ててきた先人の努力を受け継ぎ,将来の日本語につなげたい,そのために言葉に対して常に自覚的でありたい,と語りました。
  2. 清水義範氏は,「小説の中の外来語」と題して,明治から現代までの小説で外来語がどのように使われてきたかを取り上げました。具体的に19編の小説を挙げ,そこで使われている外来語の特徴やそれらが文体に与える影響などを個別に解説しました。そして,時代とともに移り変わっていく外来語はその時代性を描くのに一役買っていること,だからこそ,その当時は外来語の部分が新鮮に見え,時代が経(た)つとそれが古びて見えていくことを指摘しました。
  3. 水谷修氏は,「外来語をとりかこむもの―外来人,外来もの,外来文化を考える―」と題し,古来,日本人が「外来」という問題とどう接してきたかについて述べました。遣唐留学生「井真成」の墓誌を例に,8世紀頃の外来語問題について説明し,またタイ米が流入したときの騒動を例として,外国のものを日本の社会に取り入れる際の問題点を指摘しました。その上で,自分の持っている言葉をどれだけ大切にできるか,どれだけ意識化して活用する能力を身につけているのかが現在問われているのではないかと問いかけました。

休憩時間には,パネルによる国語研究所「外来語言い換え提案」の紹介や,刊行物の展示などが行われ,来場された方々が研究員と活発にやり取りされる場面が多く見られました。

第28回「外来語の過去・現在・未来」02

休憩後の後半には,参加された方々からの質問に講演者が答える質疑応答の時間がありました。会場からは数多くの質問が寄せられ,外来語に対する関心の高さを改めてうかがわせました。最後に,「外来語の未来」と題した全体討議を行いました。未来に向けて,私たちは外来語とどう向かい合っていくべきかについて,講演者の間で意見を交わしました。そして,外来語のみならず,日常生活の中で,言葉を意識的・自覚的に使っていくことの重要さを再確認しました。

なお,今回の「ことば」フォーラムは,文部科学省「平成17年度教育・文化週間」の一環として行われました。

(丸山 岳彦)

  第28回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/28/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。