国語研の窓

第29号(2006年10月1日発行)

暮らしに生きることば

「立派の人」「普通な人」

表題の言葉を見て,多くの方は”何か変な言い方だな”と感じたのではないでしょうか。ほとんどの人が「立派の人」という言い方はおかしく,「立派な人」とするべきだと思ったことと思います。一方,「普通な人」は,これでいいという人と「普通の人」とするべきだという人がいると思います。場合によって使い分けるという人もいるかもしれません。

実は時代をさかのぼると「立派の人」という言い方は間違った言い方ではありませんでした。国語研究所が作成した『太陽コーパス』は明治・大正時代の雑誌の言葉を調べることができるデータですが,これによれば「立派な~」という言い方が444件あるのに対し,「立派の~」という言い方も22件あります。なかでも古い時代ほど「立派の~」の方が多く使われていて,時代とともにこの言い方が使われなくなっていったことがわかります。「普通」の方はどうかというと,「普通な~」は4件,「普通の~」は554件でした。

では現代語ではどうでしょうか。「立派の」はもう使われないので,「普通な」と「普通の」について割合を調べてみました。新聞のデータベースを検索すると,新聞では改まった言葉遣いがされるせいか「普通な」はほとんど使われず,およそ1:500の比率で「普通の」のほうが多く見られます。インターネットの検索サイトでは,およそ1:15でやはり「普通の」のほうが多いのですが,新聞よりは「普通な」もずっと多く見られるようです。

どうやら,「普通の」という言い方に対して「普通な」という言い方が増えてきているようです。かつて「立派な」が増えて「立派の」が使われなくなったときと同じようなことが起きるのでしょうか。

雑誌や書籍などの他の媒体ではどう使われているのか,気になるところです。現在のところ,多くの資料をバランスよく調べることのできるデータがないのですが,国語研究所ではKOTONOHAという言語コーパス整備計画を進めています。これが完成すれば,こうした移りゆく言葉の実態を的確に捉えることが可能になるはずです。

(小木曽 智信)

*コーパスとは, 言語研究用に作られたデータベースのことです。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。