ことばの疑問

方言にも文法があるのでしょうか

2025.08.19 横山晶子

質問

方言にも文法があるのでしょうか?

方言にも文法があるのでしょうか

回答

あります。「方言にも文法があるの?」あるいは「方言にも文法があると知って驚いた」というコメントは、地域で研究していると度々いただく言葉です。

「え、逆に文法がないと思っていたの?」と、地域言語の研究者としては思うのですが、「方言(地域のことば)は標準語が訛ったり、ちょっと変わったりしただけ」というイメージの方は意外に多いのかもしれません。

そこで、この記事では「方言(地域のことば)は単語や語尾がちょっと違うだけではなくて、それぞれが独自のルールを持った言語体系なんだ」ということの、一端を紹介したいと思います。

「文法」とは?

「文法」とは、文を作るときの語順や組み合わせ、その時に必要な語形変化など、ある言語で文を作るときのルール全般を指します。

例えば、日本語では

太郎が 花子を 呼んだ。

という文は

主語 目的語 動詞

の順になりますが、英語では同じことが

Taro called Hanako.
主語 動詞 目的語

という順になります。

このような単語の順番のルールも文法ですし、それぞれの言語において、現在→過去の意味にするときに「呼ぶ→呼んだ」「call→called」のような語形変化をするときのルールも、文法の一部と言えます。
私は過去の「た」を接辞と解釈するため「語形変化」と呼んでいますが、連用形に助動詞が接続した形と分析する方法もあります。

文法の「発見」

母語話者は必ずしも”文法”を意識して話しているわけではありません。

話し手が無意識に使っていることばのルールについて、データを基に明らかにしていくのが研究者の仕事なのですが、皆さんにもその一端を体験していただきたいと思います。

表1は、鹿児島県奄美群島沖永良部島のことば(地域では「しまむに(=島ことば)」と呼ばれています)で、「叩く」「起きる」「笑う」という動詞が、「叩かない」「起きない」「笑わない」などの”否定”の意味や、「叩い」「起き」「笑っ」などの”過去”の意味を表すときの言い方をまとめたものです。

「?」になっているところがどんな形か、予測できるでしょうか……?

表1
現在 否定(~ない) 過去(~た)
叩く わゆん わらん わたん
起きる うきゆん うきらん うきたん
笑う わろゆん わろらん わろたん
眠る にぶゆん

………。

正解は、「眠らない」が「にぶらん」、「眠った」が「にぶたん」です。

いかがでしょうか?

この時、正解した方は次のような推理をしたはずです。

  • 活用変化に関わらず、動詞にはそれぞれ”共通の部分”があるらしい(=これを言語学では「語根(ごこん)」と言います)
  • そしてその語根に、“現在”を表すときには「-ゆん」、”否定”を表すときには「-らん」、”過去”を表すときには「-たん」という形を付けるらしい(=このように語根につく部分を言語学では「接辞(せつじ)」と呼びます)
  • ならば「眠る」の共通部分は「にぶ」で、否定は「-らん」を付けるので「にぶらん(眠らない)」、過去は「-たん」を付けるので「にぶたん(眠った)」だ!

実際には、上のルールは共通部分(語根)が母音で終わるときに通用するもので、語根が子音で終わる時にも使えるルールにするには、もう少し調整する必要があります。

また、「しまむに」の難しいところは、後ろにつく接辞によって語根側のかたちも変化していくことなのですが、これは複雑なので、この記事では触れません。

ただ、ここでお伝えしたいのは、話し手が無意識に話している島ことばの中に、このように規則正しいルールが働いているということです。ルールがあるからこそ、皆さんは聞いたことがない言語の活用を予測することすらできました。

ルールの面白さ

このルールが少しずつ明らかになるとき、また謎の現象の背後にある隠れたルールを見つけたとき、私たち研究者は感動で震えます……。

その感動はそのことばを話す話者の皆さまのものでもあります。

写真は、沖永良部島の「しまむに教室」で、話者さんが自分の島ことばを記録し、法則を発見した時のレポートです。

まるで、研究者のように緻密にデータを整理されています!

後蘭方言の動詞活用と分析。グループ、動詞(共通語)形(普通形、否定形、否定過去形)が整理された一覧表になっている図
図 : 後蘭方言の動詞活用と分析(受講者の沖良子さん作成)

この方は、講座の振り返りの時に「無意識に使っている方言に文法があることを知って、感動した!」と述べられていました。

これだけ複雑なルールを無意識に使いこなしているとは、(人間って)なんてすごいのでしょう。

ルールは動詞の活用だけではありません。

例えば皆さんの方言の中には、「~じゃ」「~さ」など、何か独特な文末のことば(文末詞)はありませんか?

  • その文末詞はどんな文にでもくっつけるものでしょうか?
  • それとも特定の意味や条件の時にくっつけられるものでしょうか……?
  • 標準語に直訳できる言い方はあるでしょうか……?

こうして1つ1つの謎を探究していくと、どんな言語でも、どんな方言でも、そのことば特有のルールがあり、システムがあることに気が付きます。

このシステムの総体が、それぞれのことばが抱える「宇宙」とも言えます。

皆さんも、普段何気なく話していることばの宇宙をぜひ探索してみてください。

まとめのイラスト。方言は単語や語尾がちょっと違うだけではない。どんな言語でもどんな方言でも、特有のルール、システムがある

書いた人

横山晶子

横山晶子

YOKOYAMA Akiko
よこやま あきこ●国立国語研究所 特任助教(人文知コミュニケーター)
消滅危機言語の文法記述、記録、継承研究をしています。特に、北琉球の沖永良部島(おきのえらぶじま)のことばの研究をしています。

参考文献・おすすめ本・サイト

関連文献

  • 横山晶子(2022)『0から学べる島むに読本』ひつじ書房