ことばの疑問

「良い」の発音はヨイかイーか、実際のところはどうでしょうか

2026.01.05 川端良子

質問

「良い」は、「ヨイ」よりも「イー」と発音されることが多いように思うのですが、実際どのように発音されているのでしょうか。

「良い」は、実際にはどのように発音されていますか

回答

「よい」と「いい」

「よい」と「いい」は、形が異なりますが同じ意味を持ちます。辞書(※1)で「いい」を調べると次のように書かれています。
(※1) 新明解国語辞典 第八版

いい
「よい」の口頭語的表現。〔ただし、終止・連体形の用法しか無い。〕

ここで口頭語とは、話し言葉に特徴的に見られる語句のことです。終止・連体形の用法しかないというのは、「よい」の場合は、「よく(ない)」「よかっ(た)」「よけれ(ば)」など、連用形や仮定形の形があるのに対して、「いく(ない)」「いかっ(た)」「いけれ(ば)」などの表現は一般的に使われないということです(※2)
(※2) 方言では使われる場合があります。

質問は、「とても良い→とてもいい」「良いね→いいね」、「良い天気→いい天気」など、「よい」を「いい」に言い換えられる場合に、「良い」の部分は、「ヨイ」ではなく「イー」(※3)と発音される場合が多いのではないか、それ以外の発音を含めて実際にどのように発音されているのかということかと思います。
(※3) 片仮名表記は発音を表わしています。

実際の言葉の使用を調べたいときにとても便利な資料が「コーパス」です。コーパスとは、特定の言語で実際に用いられた用例を大量に収集し、電子化したものです(前川喜久雄 編『講座日本語コーパス 第1巻 コーパス入門』より)。国語辞書には、言葉の基本的・規範的な表記や発音の形が記載されていますが、実際には、非規範的な表現が使用される場合もあります。また、辞書には使用頻度が示されていません。コーパスを使って「良い」が実際にどのように発音されているか、使用頻度と共に調べてみましょう。

『コーパス』で実際の発音の頻度を調べる

コーパスは、研究目的に応じてさまざまな種類のものが構築されています。今回は、発音を調べることが目的なので、話し言葉を収集した『日本語日常会話コーパス(Corpus of Everyday Japanese Conversation、CEJC)』『日本語話し言葉コーパス(Corpus of Spontaneous Japanese、CSJ)』の2つのコーパスを使って調べることにします。前者は、日常のさまざまな場面の会話(2名以上)、後者は、学会講演を中心とした独話が主に収録されています。以降、それぞれのコーパスは簡略化して「日常会話CEJC」「講演発表CSJ」、もしくは単に「CEJC」「CSJ」と呼ぶことにします。コーパスから特定の語の用例を取得するには、『中納言』というWebアプリケーションを用います。『中納言』の使い方は、ここでは説明しきれないので詳しく知りたい方は、参考文献(中俣尚己『「中納言」を活用したコーパス日本語研究入門』)などを参照してください。

コーパスを使って、実際にどのように発音されているか調べてみよう

日常会話CEJCと講演発表CSJから「良い」という語が使用されている用例を『中納言』で検索し(※4)、活用形ごとに発音の種類を集計した結果を図1に示します。日常会話CEJCと講演発表CSJは、収録されている語の数が異なるので、各発音の頻度をコーパスに含まれる語の総数で割った値に100万を掛けた相対頻度(Per Million Words、PMW)を縦軸に示しています。図1の横軸はPMW が 10 以上であった発音を示しています。
(※4)『中納言』バージョン2.7.2, CEJCデータバージョン 2023.03, CSJデータバージョン 2018.01。CEJC、CSJ共に語彙素「良い」を検索。CSJは、検索対象を「独話・学会」に限定。

CECJとCSJでの頻度を出した棒グラフ「終止形」
CECJとCSJでの頻度を出した棒グラフ「連体形」
CJとCSJでの頻度を出した棒グラフ「連用形」
CECJとCSJでの頻度を出した棒グラフ「仮定形」「語幹」
図1 : 活用形別発音の種類と100万語あたりの相対頻度(PMW >= 10)

図1を見ると、国語辞書に書かれていたように「いい」は、終止形、連体形のみで使用されており、連用形、仮定形、語幹では「よい」が使用されていることが確認できます。そして、終止形、連体形の用法については、次の点に気がつきます。

  1. 終止形、連体形共に「イー」の発音が多い。
  2. 「イー」「ヨイ」の発音の他に、「イッ」「イ」「イーイ」(※5)「エー」がある。
  3. 「ヨイ」と発音する頻度は少ないが、コーパス間で比較すると CEJC よりも CSJ で使用されている。

(※5)「イーイ」は、最初音調が下降したあと、最後に音調が上昇する発音を示している。

それぞれの発音はいつ使われるのか

「いい」は、母音の[i]が連続しています。母音の連続は「連母音」と呼ばれ、連続する母音を孤立させて発音する場合と、最初の母音を引き伸ばして長音のように発音する場合で「ゆれ」があるといわれています(天沼寧、大坪一夫、水谷長『日本語音声学』より)。コーパスを調べた結果、質問のとおり「良い」はほとんど「イー」と発音されていることがわかりました。さらに、「ヨイ」「イー」の他に、「イッ」「イ」「イーイ」「エー」と発音される場合があることもわかりました。ここからは最初の質問から一歩踏み込んで、これらの発音がどのような場合に使用されるのかについて考えてみたいと思います。

まず、それぞれの発音がどのように使用されているかを知るために、用例を見てみましょう。コーパスには言い間違いも含まれるので、言い間違いのケースを除いて、各発音が使用される典型的な用例を表1に示します(※6)
(※6) CEJC、CSJの転記テキストには、音声が不明瞭な箇所や言い間違いなどの談話に生じるさまざまな現象を表現するためのタグが付与されています。終止形の発音「イ」については、全て言い誤りのタグが付与されていたので今回の調査対象からは外れています。

表1 : 「イー」「ヨイ」以外の発音の使用例(日常会話CEJC)
活用形 発音 用例
終止形 「イッ」 「まあイッか」「もうイッか」
「イーイ」 「もうイーイ」「コーヒーでイーイ」
「エー」 「エーやん」「エーよ」
連体形 「イ」 「まあイんじゃない」「どうでもイんだ」
「エー」 「エーの」「エーんちゃう」

表1の「イッ」については「促音化」、「イーイ」については「長音の挿入」、「イ」については「短縮・縮約」などと呼ばれる音声の変化の現象として知られています。「エー」は、「良い」の方言として東北や西日本の広い地域で使用されています。

音の変化は前後の音の影響を受けることがあるので、日常会話CEJCで後接する表現を調べてみると、終止形の「イッ」の発音が使用される場合は、およそ95%で後続する語は終助詞の「か」、「イーイ」の場合はおよそ93%が発話末、連体形の「イ」は、およそ99%で準体助詞の「ん」が後接していました。これは、それぞれの発音は、かなり決まった形で使用されていると言えます。ただし、後接する表現によって「良い」の発音が決まるというわけではありません。図2は、「良い」の終止形の後に終助詞の「か」が後接する場合の発音をコーパス別に示しています。表1にある「イッ」の発音だけでなく、「イーか」「ヨイか」も多く使用されていることが分かります。

終助詞「か」が後接するときの発音を、CECJとCSJで調べた結果の棒グラフ
図2 : 終助詞「か」が後接するときの「良い」の発音

図2で興味深いのは、日常会話CEJCと講演発表CSJで発音の傾向が異なることです。言葉は状況によって使い分けられています(北原保雄 監修、荻野綱男 編『言語行動(新装版)(朝倉日本語講座 9)』より)。日常的な会話を収録したCEJCと学会講演を収録した CSJは、同じ話し言葉であっても、言葉を使用する場所、目的、受け手との関係、事前の準備状況など、さまざまな条件が異なっています。学会講演は、改まった場面で不特定多数の聴衆が相手であることから、よりフォーマルな表現が選択されると考えられます。そのため、「イッ」「イーイ」「イ」のようなカジュアルな表現はCEJCで使用され、改まった表現である「ヨイ」はCSJで使用されることが多かったと考えられます。また、方言は日常会話では使用されますが、フォーマルな場面では共通語が使用されやすいと考えられます。

言葉の変化

上記で調べたのは、現代の話し言葉で、時代で言えば平成から令和の「良い」の発音でした。少し前である『昭和話し言葉コーパス(SSC)』で同様の調査を行うと、CEJC、CSJでは見られなかった「ヨキ」「ヨー」などの発音が見られます。さらに時代をさかのぼる場合、また書き言葉の場合などでは異なる傾向が見えてきます。言葉は常に変化しています(福島直恭『<あぶないai>が<あぶねえeː>にかわる時—日本語の変化の過程と定着—』)。コーパス検索アプリケーション『中納言』は、さまざまな時代の話し言葉、書き言葉コーパスを調べることができます。研究目的であれば、申請して無償で使うことができます。実際の言葉の使用に興味を持った方にはぜひ使ってみて欲しいと思います。

書いた人

川端良子

川端良子

KAWABATA Yoshiko
かわばた よしこ●国立国語研究所 共同利用推進センター 特任助教
『日本語日常会話コーパス (CEJC)』の開発に携わる。現在は、コーパス検索アプリケーション『中納言』の管理業務も行っている。名前の本来の読みは「よしこ」だが、この記事を書いていて、読みを「いこ」にすると新しい印象になるのではないかと考えた。

参考文献・おすすめ本・サイト

参考文献

  • 前川喜久雄 編(2013)『講座日本語コーパス 第1巻 コーパス入門』朝倉書店
  • 中俣尚己(2021)『「中納言」を活用したコーパス日本語研究入門』ひつじ書房
  • 天沼寧、大坪一夫、水谷長(1978)『日本語音声学』くろしお出版
  • 北原保雄 監修、荻野綱男 編(2003)『言語行動(新装版)(朝倉日本語講座 9)』朝倉書店
  • 福島直恭(2002)『<あぶないai>が<あぶねえeː>にかわる時—日本語の変化の過程と定着—』笠間書院

参考サイト