カナダでfutonと呼ばれるものを見ました。でもよく意味がわかりませんでした。futonは日本語の「布団」と指すものが違うようですが…。
カナダ人が使っていたfutonという語は、日本語の「布団」が語源で(Oxford English Dictionary による)、英語における日本語からの借用語です。このように日本語から他の言語へ流出した語は他にもたくさんあり、例えば英語のtsunamiが一例ですが、tsunamiは日本語の「津波」とほぼ同じ意味で使われています。でもfutonの場合は、英語に入ってからかなり一人歩きしたようです。
(この記事では、英語の文脈で使われている方の語をfuton、対して日本語の文脈で使われている方は「布団」と表記することにします。)
図1に映っているのがfutonです。確かにこれは日本語の「布団」と少し(どころではなくてかなり)違いますね。ここに映っているものを日本語では「布団」とはまず呼ばないでしょう。「ソファー」でしょうか。どうしてこれがfutonなのでしょう。
まずfutonが何なのか説明します。実は、日本語でいう「ソファー」が全てfutonと呼ばれるわけではないようです。英語のfutonが指すものは、(木の)フレームがあって、背もたれと座る部分を平たくするとそこがマットレスとなってベッドとして使えるタイプのものです。マットレスの部分のみならず、フレームも含めてfutonと呼びます。英語の辞書におけるfutonの定義を載せます(筆者訳)。
“a piece of furniture which consists of a thin mattress on a low wooden frame which can be used as a bed or folded up to make a chair”
「薄いマットレスが背の低い木製のフレームに乗っていて、ベッドとして使える、あるいは折って腰掛けられる家具」
(Collins Cobuild Advanced Learner’s English Dictionary (5th ed.))
“❶ a Japanese quilted mattress rolled out on the floor for use as a bed. ❷ a type of low wooden sofa bed having such a mattress”
「❶ 日本で使われる、床に広げて寝具として用いられる縫製されたマットレス。❷ そのようなマットレスとともに使う、背の低い木製のソファーベッドの一種」
( The Canadian Oxford Dictionary )
カナダ人の友達に聞いたら、futonと似たようなものにpull-out couchというものがあり、これは普段はソファーだが(カナダ英語では「ソファー」のことをcouchと呼ぶことが多いです)、ベッドが中に入っていてそれを引き出してベッドとして使うものだそうです(図2参照)。しかしこれはfutonとは呼ばないそうです。
次に日本語の「布団」から英語のfutonへの意味変化ですが、私なりの分析を述べてみます。両者に重なる意味を考えてみると、マットレスの部分がたためる(folded up、 rolled)というところではないでしょうか。日本語の「布団」は、寝具として使わないときは(万年床にしない限り)たたんで収納するでしょう。英語のfutonには、この(マットレスが)「たためる」あるいは「折れる」、そして寝るときに使える、というあたりの意味が残ったのでしょう。常時形状を変えず置いてあるベッドと区別する語として使えます。
両者で重ならない部分としては、主な使用目的でしょう。日本語の「布団」は寝具で、ソファーとして使われることはまずありません。このため、英語のfutonを見ると、日本語話者にとっては「布団」とはかけはなれていると認識されるのではないでしょうか。さらに、日本語の「布団」は敷布団のみならず掛布団を指したり、敷布団と掛布団をまとめた概念として使えたりもしますが、英語では、敷布団の意味のみが生きているようです。
最後に、futonの発音が「布団」と少し違うことを付け加えておきましょう。どの言語でも、他の言語から借用するときには自分の言語の発音に合わせて借用します。このために「布団」も英語に入ったら英語風の発音で使われます。まず、日本語の「布団」は、平らな感じのアクセントですが、(カナダ)英語のfutonは、発音記号だと/fútɑn/で、最初の音節fuにアクセントがあり、そこが強く長く高く発音されるので「ふ〜ぅたーん」のような感じです。そして、日本語の「布団」は、最初の「ふ」のuの部分が聞こえないことが多いと思いますが(専門用語で母音の無声化と呼ばれる現象です)、英語では、アクセントのある音節の母音ははっきり発音されるので、futonのuが聞こえなくなることはありません。それからカナダ英語ではtonは「トン」ではなく「タン」のような発音です。
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