ことばの疑問

日本語教育で原因・理由を表す接続助詞「から」「ので」を教えるとき何に気をつけたらよいですか

2019.02.27 佐々木藍子

質問

日本語教育で原因・理由を表す接続助詞「から」「ので」を教えるとき何に気をつけたらよいですか。

学生です「から」?学生です「ので」?

回答

接続助詞「から」「ので」は原因・理由を表す表現です。以下の例は「から」と「ので」を使った例ですが、意味的には大きな違いは感じられません。

例1 )ちょっと用事がありますから、先に帰ります。

例2 )ちょっと用事がありますので、先に帰ります。

言葉は人間ができるだけ労力を使わなくてもいいように経済的にできていると言われています。そのため、まったく同じ意味・機能を持つ表現が複数あった場合はどちらかが使われなくなり、消失していきます。しかし、「から」と「ので」は両方が存在し続け、今日まで日本語母語話者に使われてきました。つまり、これら二つの表現には何かしらの違いがあるということです。

日本語母語話者であれば、これらの類義表現の違いがよくわからなくても、うまく使い分けられるのですが、日本語学習者にとってこれらの使い分けは容易ではありません。日本語学習者が適切な場面で適切な表現が使えるよう、日本語教師はこれらの使われ方の違いや学習者の間違いやすい点を把握し、指導に取り入れる必要があります。では、日本語母語話者と日本語学習者が実際にどのように「から」と「ので」を使っているのか見てみることにしましょう。

日本語の使用状況を確認するには、学習者や日本語母語話者が日本語で話したり、書いたりしたデータを観察することが有効です。現在、国立国語研究所の日本語教育研究領域では、「多言語母語の日本語学習者横断コーパス」(International Corpus of Japanese as a Second Language 以下I-JASとする)を構築しています。これは国内外の日本語学習者と日本語母語話者の話し言葉と書き言葉の大量なデータを収集し、電子化した言語資料です。データの内訳は、海外の教室環境学習者注1850名(12言語それぞれを母語とする学習者)、国内の教室環境学習者100名および自然環境学習者(注250名、日本語母語話者50名です。

多言語母語の日本語学習者横断コーパス
多言語母語の日本語学習者横断コーパス(I-JAS)検索画面

これらのデータのうち、第一次公開データ(各母語・環境の学習者15名ずつ : 中級から上級前半レベル、および日本語母語話者)のロールプレイ1(以下RP1とする)というデータを使って、接続助詞「から」、「ので」の使用状況を分析しました。RP1は、調査者が日本料理店の店長、被調査者(学習者・日本語母語話者)がアルバイトという設定で、学習者が週3日のアルバイトを週2日にしてもらえるように依頼する場面の会話を行うものです。なぜ3日のアルバイトを2日にしたいのかという理由を述べる箇所で「から」「ので」が使われています。データを分析したところ、図1のような結果が得られました。

「から」「ので」の調査結果のグラフ
図1 : I-JASの第一次データのRP1に見られる「から」と「ので」の出現数

アルバイトを週3日から2日に変えてもらえませんか?とお願いする学習者・日本語母語話者

図1を見ると、日本語母語話者は「ので」しか使っていないことがわかります。先行研究では、「から」と「ので」の違いについて、これまで沢山の議論がありましたが、「から」は主観的、「ので」は客観的である(永野賢「『から』と『ので』はどうちがうか」)というものや、「ので」は「から」より丁寧で、日本語母語話者は目上の人に対しての発話でよく使用する(畠山衛「日本語学習者による原因・理由を表す接続助詞『から』『ので』の語用論的使い分け能力の習得を探る横断的研究」)というようなものがあります。今回の分析結果でも、目上である店長にアルバイトの日数変更を依頼する際、「から」ではなく「ので」を使っていることが窺えます。そのため、このような場面で理由を説明するときには、「ので」の方が適しているのではないかと考えられます。

一方、このレベル(初級から上級前半)の学習者はどの母語の学習者も「から」と「ので」の両方を使用しています。原因・理由を表す「から」「ので」は概念的にあまり難しくなく、「です」・「ます」などの丁寧体に接続すれば、容易に形式が作れるため、初級で導入される項目です。日本語教育の現場でよく使用されている初級教科書『みんなの日本語』では「から」は9課、「ので」は39課で導入され、「から」は「ので」より先に提示されることが多いです。学習者は既に習った文法項目と類似した機能を持つ文法項目を後から提示されても、その必要性が感じられないと先に学習した文法項目を使用し続け、新しく学習した文法項目はあまり使用しない傾向があります。そのため、先に「から」を学習した場合、「ので」を後から学習しても、「から」ばかり使ってしまうということです。少し学習者と日本語母語話者の発話例を見てみましょう。

〈学習者〉

例3 )(アルバイトよりも学校の授業のほうが大事だという文脈で)私はまだ学生ですから、うーんもっとうー成績が、んー成績を大切にする方がいいと思います(CCM10-RP1)

〈日本語母語話者〉

例4 )ちょっとあのー、ま忙しいので、週二回に減ら、せないかなと思いまして(JJJ03-RP1)

学習者が発話した例3は文法的に間違ってはいませんが、この発話を目上である店長に言った場合、日数を減らすことの正当性を強く主張しているように聞こえてしまいます。日本語母語話者の例4と比較すると「ので」を使った方が丁寧な印象を受けます。このように見ていくと、先行研究で言われているように、「ので」は「から」より丁寧さを表現できるのではないでしょうか。必ずしも日本語母語話者のように話せることが良いとは言えませんが、日本語母語話者の使用傾向を見ることで、場面に適した表現を知ることができます。学習者が適切な場面で適切な表現が使えるよう、このような語用論的な情報も指導に取り入れる必要があります。

また、日本語のレベルが上がり、「から」や「ので」の使用が安定してくると、以下のような誤用も見られるようになります。

例5 )私は、今、えーと、忙しい、忙しいから、えーと、せいしょ(最初)は、一週間に三回働い、て、えと、今、えと二回に、なるとえーとよろしいでしょうか(IID35-RP1)

例6 )あの、すみませんですけどー、ちょっと、あ、私はすごく忙しいので、〈うん〉今は、一週間三回ぐらい仕事をしていますけどー〈はい〉ちょっと、二回ぐらいいいですか?(HHG58-RP1)

例7 )なんか大学ーはちょっと忙しくなってきたん、うん、きただからちょっと時間があんまり、はい、いません(GAT23-RP1)

例5は「から」学習時に「丁寧体+から」と指導したため、「普通体+から」を使おうとした際に過剰に「だ」を付加してしまったと考えられます。また、例7では「のだ」に「から」を接続して使用したため、どこか押し付けがましい印象になってしまいます。些細なことのように思えますが、このような発話が続くと対人関係に支障をきたしかねません。

以上のことから、接続助詞「から」「ので」を教える際には形式や用法だけでなく、語用論的な観点も踏まえ、どのような状況で誰に対して話すかという「場面」を複数設定して練習したり、すでに「から」や「ので」の学習が終了していても、あとから学習した文法項目に接続させて使う場合についても、定期的に復習する時間を取り入れて指導を行うことが必要です。


注1)日本語学校や大学などの教育機関で体系的に日本語を学んでいる学習者のこと。
注2)日本で生活しながら、日本語を学んでいる学習者のこと。主に生活者。

書いた人

佐々木藍子

佐々木藍子

SASAKI Aiko
ささき あいこ●国立国語研究所 日本語教育研究領域 プロジェクト非常勤研究員。立教大学日本語教育センター兼任講師。
現在は、国立国語研究所のプロジェクトで「多言語母語の日本語学習者横断コーパス」の構築に携わり、日本語を第二言語として学ぶ学習者がどのように日本語を習得していくのかについて研究しています。主要論文は「日本語学習者の接続助詞「から」の習得過程に関する研究―接続形式の習得に着目して」(『教育学研究紀要』52(2)、2006)、「学習者・教師双方から見た「理解が深まる日本語の授業」とは―自由記述データによる共通点・相違点から―」(『日本語・日本語教育』第1号、2018)等。

参考文献・おすすめ本・サイト

  • 迫田久美子・小西円・佐々木藍子・須賀和香子・細井陽子(2016)「NINJAL-多言語母語の日本語学習者横断コーパス International Corpus of Japanese as a Second Language」『国語研プロジェクトレビュー』第6巻3号、93-110
  • 永野賢(1952)「『から』と『ので』はどうちがうか」『国語と国文学』29-2、pp.30-41
  • 畠山衛(2012)「日本語学習者による原因・理由を表す接続助詞『から』『ので』の語用論的使い分け能力の習得を探る横断的研究」『ICU日本語教育研究』8、pp.3-17
  • スリーエーネットワーク 編(1998)『みんなの日本語 初級Ⅰ本冊』 スリーエーネットワーク
  • スリーエーネットワーク 編(1998)『みんなの日本語 初級Ⅱ本冊』 スリーエーネットワーク