国語研の窓

第29号(2006年10月1日発行)

解説:敬語使用と敬語意識の変遷

解説:敬語使用と敬語意識の変遷
―愛知県岡崎市における継続調査から―

「敬語の乱れ」はいつの時代においても言葉の問題のひとつとして意識されています。敬語をどうするかについて議論するためには,「敬語の乱れ」の実際の姿はどのようなものか,それを生み出した原因にはどのようなものがあるのか,などについての科学的データの裏づけが不可欠です。そこで,国立国語研究所では,1953年と1972年に愛知県岡崎市で,敬語使用と敬語意識についての調査を実施しました。2回の調査とも,サンプリングによって選ばれた岡崎市民400人を対象に行いました。また,2回目の調査では,1回目の調査で回答していただいた方々に再度,協力をお願いしました。

いずれの調査においても,敬語使用と敬語に対する意識の実態や推移を明らかにすることが目的です。つまり,方法も内容も同じ調査を定期的に企画・実施して,敬語の使われ方をめぐる変遷を明らかにしていくのです。実際,20年間に起こった敬語の変化と,同じ人が年を重ねることで見られる敬語の変化について,さまざまな角度から分析してきました。

ここで,これまでの岡崎市での調査で明らかになったことを二つ紹介しましょう。まず,話し相手によって,「私」「僕」「あなた」「君」のような人称代名詞を使い分けるべきかどうかについての調査結果から取り上げます。図1に,相手によって人称詞を「使い分けるべきである」と回答した結果をまとめました。

図1 相手によって人称代名詞を「使い分けるべきである」という割合
図1 相手によって人称代名詞を「使い分けるべきである」という割合

図1から,1回目の調査結果と比べると,2回目の調査結果の方が「使い分けるべきである」という意見がどの年齢層でも多くなっていることが分かります。話し相手によって人称代名詞が使い分けられることが望ましいと考える人が増えているということです。

次に,家の中でも,年長の人や目上の人には敬語を使うべきかどうかについての調査結果を取り上げます。例えば,テレビアニメの『サザエさん』で磯野フネさんが夫の波平さんに対して敬語を使いますが,このようなことがどのように意識されるのか,ということです。図2に,「敬語を使うべきである」と回答した結果を示します。

図2 家の中で年長者や目上の人に「敬語を使うべきである」という割合
図2 家の中で年長者や目上の人に「敬語を使うべきである」という割合

図2から,家の中でも年長者や目上の人に対して「敬語を使うべきだ」という割合を比べると,どの年齢層でも2回目の方が低くなっていることが読み取れます。逆に言えば,家の中では敬語を使わなくてもいい,という意識が強まっていることになるのです。

このように2回の調査結果を分析すると,岡崎市では,20年間に敬語をめぐる意識に変化が生じていることが分かります。具体的には,年齢にかかわることなく,場面による人称代名詞の使われ方には敏感になっている一方で,家の中では敬語を使う必要性を以前ほど感じなくなっている,ということです。

国立国語研究所では,岡崎市で3回目の敬語使用と敬語意識についての調査を実施する予定です。2回目の調査が実施された1972年から今日に至るまで,社会は大きく変化しています。現在における敬語使用と敬語意識がどのようなものか。また,社会変化との関係の中でどのように変化したのかについて,調査・研究をしていきます。

(朝日 祥之)

 

  敬語と敬語意識の半世紀―愛知県岡崎市における第三次調査―:http://www.kokken.go.jp/okazaki/
  国立国語研究所の定点経年調査:http://www2.ninjal.ac.jp/keinen/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。