国語研の窓

第37号(2008年10月1日発行)

ことばQ&A

沖縄方言の「しりしり」とは?

質問

沖縄県に「にんじんのしりしり」という家庭料理があるそうです。「しりしり」とはなんですか。

回答

以前,ある新聞社から同様の質問がありました。インタビューに答えた沖縄出身の女優が「にんじんのしりしり」と呼ぶ卵炒めに入る「しりしり」とは,道具で作る千切りのことだと説明したそうです。ところが,インターネット上では「すりおろしたもの」ばかりではなく,いわゆる「おろしがね(大根おろし)」や「鬼おろし」,ピーラーやスライサーの類も「しりしり」と呼び,さらに「すりおろすこと(動作)」を表わす場合もあります。

沖縄方言といえば,国立国語研究所の昭和38年に初版を刊行した『沖縄語辞典』があります。この索引から,関連する「おろしがね」「大根おろし」の項目が見つかりました。

ことばQ&A

これによると,「でえくにしりい」が「大根おろし」すなわち「おろしがね」(道具)のこと,「でえくにしりしりい」が「大根おろし」「大根をすりおろしたもの」であるとあります。後者の「大根おろし」というのが「おろしがね」(道具)をあらわすのか,それとも「しりしりい」はすりおろした食べ物だけをあらわすのか,厳密にはわかりません。この「しりい」は動作の動詞「する」の連用形転成名詞「すり」のことかと思われますが,それを繰り返した「しりしり(い)」が食べ物を,単に「しり(い)」の方は道具を表わすという使い分けがあるのでしょうか。

国立国語研究所では『全国方言談話データベース日本のふるさとことば集成』という音声と文字からなる方言資料を刊行しています。「第20巻 鹿児島・沖縄」の調査担当者で,琉球大学の狩俣繁久先生によると,道具を表わす言葉として「デークニシリー(大根おろし)」「ソーガシリー(生姜おろし)」「ンムクジシリー(芋葛おろし)」などがある。一方「デークニシリシリー」「ソーガシリシリー」は本来「おろしたもの」を表わす言葉だが,現在では道具を表わすこともある,とのことです。さらに,道具を単に「シリシリー」と呼ぶこともあるし,新しい言い方では,千六本を作ることを「シリシリーする」ともいい,おそらく「にんじんシリシリー」も戦後広まった単語ではないか,とのことです。

かつて調査・採集した方言の記録(『沖縄語辞典』)によって,現在実際に使われている方言の姿や,そこにいたるまでの派生や変化などの動きを,より鮮明にすることができそうです。

(山田 貞雄)

参考:「琉球語音声データベース」(http://www.ryukyu-lang.lib.u-ryukyu.ac.jp/index.html)
(リンクをクリックすると琉球大学附属図書館のホームページに移動します。)

※このコーナーは,当研究所に寄せられた言葉についての質問をもとに作成しています。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。