第40号(2009年7月1日発行)
昨年(2008年)11月,愛知県岡崎市で国立国語研究所の研究員,大学教員,大学院生ら約30名の調査員による敬語と敬語意識に関する調査が実施されました。この調査は昭和28(1953)年と昭和47(1972)年に行われた敬語と敬語意識に関する調査の3回目の調査です。調査ではまず,サンプリングによって選ばれた600人の岡崎市民がその対象となりました。この調査と今年2月の補充調査を実施した結果,合わせて306人から回答をいただくことができました。この他にも,1回目・2回目の調査に協力してくださった145人の岡崎市民にあらためて調査を依頼・実施し,82人から回答をいただくことができました。その中でも,1回目の調査から参加くださった20人からは半世紀にわたってご協力をいただきました。
愛知県岡崎市での調査の特色は,敬語と敬語意識の実態や推移を同じ方法・内容の調査を定期的に企画・実施しながら明らかにすることにあります。最初の調査が行われてから55年の間に生じた敬語と敬語意識の変化に迫るわけです。では,具体的にどのような結果になったのでしょうか。ここでは,サンプリングによって選ばれた岡崎市民に対する3回の調査で質問された項目を二つ取り上げます。
まずは,話し相手によって「私」「僕」「あなた」「君」のような人称代名詞を使い分けるべきかどうかについて尋ねた項目から見ましょう。図1に相手によって人称代名詞を「使い分けるべきである」と回答した結果をまとめました。
図1 相手によって人称代名詞を「使い分けるべきである」と回答した割合
図1から3回の調査結果を比べると,「使い分けるべきである」という意見がどの年齢層でも多くなっていることが分かります。話し相手によって適切に人称代名詞が使い分けられることを期待する意見がすべての年齢層に広まっている様子が見て取れます。
次に,家の中でも年長の人や目上の人には敬語を使うべきかどうかについて聞いた項目を見てみましょう。図2に「敬語を使うべきである」と回答した結果を示します。
図2 家の中でも年長の人や目上の人に「敬語を使うべきである」と回答した割合
図2から3回の調査結果を比べると,すべての年齢層で「敬語を使うべきである」と回答した割合が低くなっています。家の中では,たとえその相手が年長の人や目上の人であったとしても「敬語を使わなくてもよい」という意見が広まったと言えるでしょう。
このように,55年をかけて同じ内容の調査を定期的に繰り返して行うことで,実際に生じた変化を抽出することができます。例えば上の二つの調査結果に見たように,敬語の使い方や敬語に対する意見は,時代の状況によって変化していくものです。その意味でも,敬語に関する事象については,絶えず目配りをする必要があると言えるでしょう。愛知県岡崎市で実施された3回目の敬語に関する調査は,継続して行われるべきものであると思われます。
なお,3回目の調査に関する報告会を,平成21年8月29日に岡崎市図書館交流プラザLibraで開催する予定です。詳細は後日,国立国語研究所ホームページ等でお知らせいたします。
(朝日 祥之)
敬語と敬語意識の半世紀―愛知県岡崎市における第三次調査―:http://www.kokken.go.jp/okazaki/
国立国語研究所の定点経年調査:http://www2.ninjal.ac.jp/keinen/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。