第40号(2009年7月1日発行)
最近よく耳にする言葉に「じいじ」「ばあば」があります。「おじいさん」「おばあさん」という意味ですが,こうした言葉が使われるようになったのは比較的最近のことかと思います。平成16年夏にNHK総合テレビで「ジイジ~孫といた夏」という西田敏行主演(祖父役)のテレビドラマが放映されましたが,私がこの言葉に接したのはこのドラマが初めてでした。ドラマの題名に使われるくらいですから,当時もすでにある程度普及していたのでしょう。
インターネットでこれらの表現を検索するとかなりの件数がヒットします。話し言葉として現在どれくらい普及しているのでしょうか。地域差や年齢差・男女差などはあるのでしょうか。
平成21年3月に民間の調査会社に委託して,無作為に選ばれた全国の803人を調査しました。このうち首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)は214人ですが,全国への影響力が大きいことからより詳しい分析ができるよう, これとは別に無作為に選ばれた122人を追加して計336人としました(全国調査の分析ではこの122人は含めていません)。
データを分析したところ,「祖父」「祖母」という意味で「じいじ」「ばあば」と言うことがあると回答した人はいずれも約24%でした。国民の4人に1人はこの表現を使っていることが推測されます。多数派ではありませんが,現在一定の勢力を持っていることが分かります。
図1は地域別に見たグラフです(括弧内の「N=」の数値は回答者数)。全国的に使われてはいますが,地域的な片寄りがあります。どうやら首都圏や東海地方を中心に使われている言葉のようです。そこから遠ざかるほど数値が下がる傾向から,首都圏・東海から周辺へと普及しつつあることが推測されます。
図2と図3は性別×年齢層別に分析した結果です。細い折れ線により首都圏(336人)の数値も示しました(括弧内の「/」の左は男性,右は女性の回答者数。[ ]内は首都圏の回答者数)。全国で見ると若い世代に向け増加傾向が認められ,現在普及の過程にあることが推測されます。男女差も大きく,おもに女性が使う表現のようです。首都圏の50代以下の女性の数値は突出していて注目されます。全国での使用をリードしていることを伺わせます。
このほか今回の調査では,兄や姉を呼び捨てにするかどうか,「げた箱」と言うか「くつ箱」と言うか,関西の「しんどい」は全国的にどの程度普及しているかなども調べています。また,今回は回答者の音声も録音させていただき(全国から無作為に選ばれた多人数の音声データというものはいまだかつてありません),「鏡」のガを鼻にかけた鼻濁音で発音する人が現在どれくらいいるか,デズニーランドとディズニーランドとどちらの発音が多いかなども調べています。
こうした国民の言語使用・言語生活に関する調査研究は,現在の日本語を把握する上でも,また百年後の日本人が平成時代の日本語の状況を理解する上でも重要です。
(尾崎 喜光)
図1 「じいじ」「ばあば」の使用者率(地域別)
図2 「じいじ」の使用者率(性×年齢層別)
図3 「ばあば」の使用者率(性×年齢層別)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。