公的な文書を書く時の決まりのようなものはありますか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』14号(2001、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。

文章を書くために最低限必要なのは、日本語を書き表す際の基本的な決まり、すなわち「正書法」です。もし日本語が、
わたしは きょねん ほんこんに いった。
のように、仮名だけで書かれるのであれば、正書法としては、仮名で日本語の音を書き表す決まり、すなわち仮名遣いと、語と語の区切りを示す「分かち書き」の決まりがあればよいことになります。しかし、現行の日本語の表記は「漢字仮名交じり」が主であるため、分かち書きの必要が特にない代わりに、次のような点が問題になります。
これらの点について国が定めた目安等には、次のようなものがあります(いずれも内閣告示または訓令)。
これらは、いずれも「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活」における表記の「よりどころ/目安」であり、「科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」とされています。また、人名・地名などの固有名詞は対象外とされています。
省庁で作成される公文書の文章(公用文)については、これらの告示や訓令をふまえた、次のような文書が出されています。
また、文部省(現文部科学省)では、次の資料が作成されています。
これらの資料は、公文書以外の文書の表記について定めたものではありません。しかし、公的な立場から出された目安がほかにほとんどないため、省庁以外のところでもよく利用されています。国語審議会(平成13年からは文化審議会国語分科会)の次の報告も、同じ理由により、各方面で参考にされています。
ここまで表記に関する目安等について見てきましたが、「公用文作成の考え方」には、表記以外に用語・文体・書き方に関する次のような記述もあります(抜粋)。
これらは、公用文に限らず、「だれにとってもわかりやすく、かつ書き手の意図が正確に伝わる」文章を書くための基本的な心得として、十分参考になるものです。(このほか『言葉に関する問答集・総集編』の「よい文章を書くために」も参考になります。)

公用文は「お役所」の文章であり、日常の言語生活とはあまり関係がないと思われるかもしれません。しかし、実際は、日本語の表記が持つ根本的な問題や、コミュニケーションの道具としてのことばの本質と正面から向き合っているのが公用文だともいえるのです。