電気器具のプラグを差し込むところを「コンセント」といいます。この「コンセント」とは、どの辞書にも、「コンセントプラグ」から来ている、とあります。しかし英語には、その原語らしい言葉が見当たりません。しかも英米で「コンセント」とは言わないようです。なぜですか。
辞書にあるように、どうして大正時代に「コンセントプラグ」という言葉があったのか、誰がどこで使っていたのか、すぐには言葉の資料からは、分かりませんでした。ただし電気器具や配線の、家庭にまで普及した時代や事情を考えると、設計や工事関係者の間には専門用語が先にあって、それが一般に普及したのかもしれません。
そこで、東京電力株式会社の「電気の史料館」に問い合わせてみました。すると多くの情報を貰うことができました。
電気の屋内工事に用いる用語を解説する事典では、詳しくその事情が述べられているとのことでした。そこでは、直接には、大正13年に東京電燈の発行した規程(初版)で、「コンセントプラグ」という言葉を用いており、当時は、上でいえば、プラグとコンセントを組んだ両方を指していたというのです。それを大正末に規程を改訂するにあたり、コードのついた方を「プラグ」、壁に設置する方を「コンセント」と分けて改めたことから、「コンセント」というようになった、というのです。
しかも、すでに明治期から、電気製品に実際に使われた、concentric plug(「同心構造のプラグ」の意)をいう「コンセントプラグ」という言葉はあったとのことです。
われわれの日常生活では、今でも電源アダプタなどに丸い同心構造のプラグが使われています。明治期の外国製の電気製品には、この同心構造のプラグが多かったそうです。同心構造ではない二本や三本の四角い足のあるプラグの形状が主流になっても、「コンセント」の言葉だけが残った、ということのようです。
国語辞典や外来語辞典の類を引いても、「コンセントプラグ」が同心円上の構造のプラグのことを指すことや、それが日本で最初に普及した電気器具類に用いられていたこと、さらに、電気工事の専門家の規程によって、単に「コンセント」と言うようにしたこと、などを知ることはできません。よく使う割には元の意味まで考えないで使う、という日常の外来語の典型かもしれません。
小林勲編著『図説 電気工学大事典13巻 屋内工事編』(電気書院 1969)