どうやったら外国語を早く習得できますか?

日本語教師をしながら言語教育(応用言語学)の研究をしている私にとっては究極のご質問ですが、残念ながら、誰にでも通用する要領の良い方法はないと思われます。学習目的、年齢、母語、学習する言語、学習者のタイプ、学習環境、かけられる時間など、さまざまな要因によって変わってくるからです。ただ、これまでの研究でわかっていることもありますので、私の個人的な見方も含めて、重要だと思うことをいくつかお答えします。
外国語を習得するとはどういうことでしょうか。例えば、公園で子どもと話をすることと、コンピュータのマニュアルを読むことでは、必要な言葉はまったく違います。文学書が読めることとビジネスの交渉ができることでもまったく異なる言葉が必要です。
また、言語使用は一般に4技能(聞く、話す、読む、書く)に分けられますが、例えば、読めるけど話せない、あるいは話せるけど書けないといった人は少なくありません。世界にはバイリンガル(2言語使用者)やトリリンガル(3言語使用者)がたくさんいますが、これらの人々も、実際には、いずれの言語も4技能をバランスよくできる人は少なく、その必要もないことが多いのです。
これらから言えることは、まずその言葉を使って何をしたいのかを考えて、「必要なジャンルの必要な技能の習得に努める」のが早道だということです。早く習得するというと、短い時間で多くの表現を身に着ける方法などを考えがちですが、実は「目的に合わせて、学ぶ内容を減らす」ことが一番の早道です。私は応用言語学の専門書を読んだり応用言語学の学会で英語や中国語を使って発表したりすることができますが、少し違う専門の話になると全然わかりませんし、文学書なども辞書がなければ読めません。しかし、それで困ることはほとんどありません。中級以上になるとときどきしか出てこない語句が増えますが、知らない語をすべて覚えようとするのは効率的でなく、よく使われる語から学習すべきです。また、目的を意識することで「できるようになった自分を具体的に想像」できるようになれば、動機づけも高まり、勉強が楽しくなるかもしれません(心理学では、成功した自分を具体的に想像できる人のほうが、成功確率が高くなると言われています)。

いわゆる初級レベルでは、発音や文字と、基本的な語彙や文法を学習することが普通ですが、これらは、その先にどのような目的で勉強をする場合にも繰り返し出てきます。ですので、「初級で完璧に使えなくても、理解できれば、どんどん先に進む」のがよいと思います。
外国語の勉強を始めても初級でやめてしまう人が多いのですが、それは初級だけを終えても、現実に言葉を使える体験があまりできないからだと思います。初級レベルからやる気を維持する一つの方法として「努力が報われる体験」ができるよう、学習したことを使ってみることを勧めたいと思います。インターネット上でその言語のサイトを見てみるのもよいでしょう。初めは理解できないことが多いと思いますが、知っている単語を拾い読みしたり、おもしろそうな番組を聞いてわかる単語から内容を想像したりするだけでもいいかもしれません。その意味では、その言語の話されている社会や文化に関心を持つことも、言語が使えるようになる早道だと思います。

教科書・単語帳を使った丸暗記や問題集を解くことも、大いに効果があるのですが、実際の場面・状況での意味と形の処理にはならないため、それだけでは話せるようにはなりません。そのあとで具体的な文脈や状況で使う経験が必要です。言葉で説明できるような知識は宣言的知識 (declarative knowledge)と呼ばれるのですが、スラスラと話せるというのは、自転車や水泳ができるというのと同じで、言葉で説明できるようなことではなく、手続き的知識( procedural knowledge)と呼んだりする、一つの技術のようなものです(Anderson, J. Language, memory, and thought より)。ですので、言語習得にも“実習”が要るのです。
「多読/多聴は特におススメ」です。多読(多聴)というのは、ほとんど知らない単語がないような、「レベルに合った易しいものをたくさん読む(聞く)」ことです。知らない単語が多くても2~3%(30語から50語に1語)程度であれば内容を半分以上は理解できると言われています(Nation & Waring Teaching extensive reading in another language より)。英語はgraded readersと呼ばれる段階別読み物が充実しており、最も易しいものは50語程度しか知らない段階から読めます。最近は世界の様々な言語で段階別読み物が開発されています。辞書を引かなくてもわかるものを読めれば、自分が言葉を使う体験ができ、動機づけを保つことができます。そして、言葉を処理する速度が速くなり、早くたくさん読んだり聞いたりできるようになります。インプット(聞くことや読むこと)の量が増えれば、少し練習をするだけで話したり書いたりできるようになる」はずです(理解できないものは使えません)。
また、字幕付きの映画(英語学習なら英語字幕付きの映画)を観て楽しみながら、セリフの上に自分の声を重ねるような方法(シャドーイング・オーバーラッピング)は簡単ですが効果がありそうです。字幕は母語(日本語母語なら日本語)にすれば、目で見て意味を理解しながら、耳と口で音の処理をすることになりますし、字幕を対象言語にすれば、目と口で読むことと話すこと(発音)の練習をすることになります。耳で音を聞きながら意味を理解して、わからないところでは字幕も見ながら聞くのもいいかもしれません。例えば動画配信のNetflixなどでは多言語の字幕を簡単に表示できるそうですので、いろいろ試してみたらよいと思います。

性格や態度と言語習得の関係にはわからない点も多いのですが、「リスクを取って(勇気を出して)話しかける」ことができる人のほうが(特に会話は)できるようになるでしょう。話すときには間違いを気にしすぎないほうがいいかもしれません。
アウトプット(話すこと・書くこと)を焦る必要はありませんが、理解できることが増えてきたら「アウトプットやインターアクション(やり取り)も効果的」です。「アウトプットには自分が話せない内容に気づける効果がある」と言われます。話せるようになるには、「自分の言いたいことに必要な語彙を脳内の辞書から検索し、瞬時に組み立てる」過程が必要ですが、それには、「語の形(音声/文字)と意味を同時に処理する経験が多いほうがよい」とも言われます。例えば、ある表現を使わないと相手に意味が通じないという状況でその表現を使えれば、それは形と意味を同時に処理できたことになります。
インターアクションの中で使える学習のコツもあります。相手の言ったことがわからなかったときには以下のように言えます(カッコ内は英語の例)。すみません、もう一度お願いします (Could you say that again?) 、ゆっくりお願いします (Would you speak slowly?) 、○○はどういう意味ですか (What does ○○ mean?) 、◇◇語で××と言えますか (Do you say ×× in ◇◇?) 、この言い方で正しいですか (Is this how you say it?) など、「相手の言うことをわかりやすく変えてもらうように頼んだり、自分の言い方が正しいかどうかを確認したり」できます。このようにして覚えた語は忘れにくいものです。言葉を覚えるときに、自分の生活でそのまま使える例文を作って覚えれば、実際に使えるチャンスが増えるでしょう。使って通じる成功体験は動機づけを高めます(やる気が出ます)。その言葉を使う友達がいればわからないことを聞けますし、いいですね。

語彙の学習にはいくつかコツや注意点があります。ある語を学ぶときは、その語に「少し違うがよく似ている」文脈で複数回触れることが効果的です。一つの文章に複数回出てくることもありますし、読んだことを調べたり、それについて誰かと話したり、音声でニュースやドラマを聞いてから、同じニュースやドラマを文字で読んだりするのも効果的でしょう。また、「意味や形が類似している語句を同時に勉強しないほうがよい」と思います。私自身の経験ですが、redundant(無駄な語の多い、冗長な)とreluctant(いやいやの、やる気がしない)を混同して、なかなか覚えられなかったことがあります。どちらもよくない意味で、形も似ていたからです。「似ている語を混同したら、まずどちらか一つに集中」して覚えます。それが完全になってからもう一つを覚えればよいでしょう。
また、「覚えた語句は忘れないうちに少しだけ時間を空けて復習して記憶を強化する」のが効果的です。中級以上になると同じ単語が繰り返し出てくることが少なくなります。しかし、「ある分野の話題に集中すれば同じ単語が繰り返される」ことが多くなり効果的です。語彙は数えられるので、計画的に学習するのも有効です。中級レベルぐらいになったら、1週間に新しい語をいくつ覚えられるか、数えてみるとよいでしょう。例えば英語であれば、上位3000語程度をきちんと使えるようになれば、日常会話はある程度できるはずです。8000~9000語ぐらい理解できれば、概ね上級レベルと言ってよいと思います。Vocabulary Size Test (Nation & Beglar, 2007)で正解数に100をかければ、理解語彙数が推計できます。

どの言語でもよいので何かできるようになりたいということであれば、「自分の第一言語に近い言語を学ぶ」のが近道です。日本語が第一言語であれば、例えば、韓国語は文法が似ているので学びやすいとよく言われます。中国語は、文法は大きく異なりますが、勉強などで使う硬い語彙には日本語と同語源の語彙が多く、発音さえできれば、目で見て理解することの容易な語彙が多いと言えます(日常生活の語彙は共通性が高いとは言えませんが)。発音については、日本語と同じ5母音で開音節の(子音の連続の少ない)言語が学びやすいかもしれません。スペイン語、イタリア語、マオリ語(ニュージーランドの先住民言語)などがそれにあたります。
これまで述べてきたことを、大きく三つに分けて整理すると以下のようになります。
まだまだほかにもいろいろありますが、よりくわしく知りたい方は、応用言語学(言語教育学)を勉強してみてください。白井恭弘『外国語学習に成功する人、しない人—第二言語習得論への招待—』は手に取りやすい本だと思います。(ここに書いたことの一部は、松下達彦「ことばのコラム——第15回 ことばの時事問題(2):語彙学習方法をどう評価するか」、松下達彦 講演用スライド
「中級の壁を破る—主に語彙学習の観点から—」に基づいています。)