Vol. 8 (2020年9月発行)
1990年代の初めに活発化したモダリティの研究は、現在に至るまで、日本語文法研究者たちにとって主要な研究トピックの一つであり続けている。内省に基づく研究、コーパスに基づく研究、異なる言語間での対照研究など、研究の方法論は様々に分化してきたが、それらを広く見渡すような視点は存在しなかった。
今回、2018年12月に開催されたNINJALシンポジウム「データに基づく日本語研究」での発表が、論文集としてまとまった。「多様な言語データに基づいて多角的・総合的な観点から日本語のモダリティ研究を開拓しようとする論文集」とのことである。第1部では、日常会話コーパス、書き言葉コーパス、方言コーパス、通時コーパス、学習者コーパスといった、国立国語研究所で開発が続けられている一連のコーパス群を用いたモダリティの実証的な分析が示されている。第2部では、音声、記述文法、対照研究、脳科学といった観点から、モダリティの現象に迫っている。
充実した執筆陣による多彩な論考を収めた本書は、日本語のモダリティ研究の到達点の一つとして捉えることができるだろう。モダリティを多角的・総合的に見渡すための土壌(研究基盤)が整ってきたことを示す実践例として、必読の書である。
▶ 丸山岳彦(専修大学・国立国語研究所)