日米のプロ野球で活躍したイチローはどうして Itiro ではなく、Ichiro と書くのでしょうか。
これは実は、日本語の ta(「た」)と ti(「ち」)の t の音の発音が違うことが原因です。
この疑問を持つのは、タ行がつぎのようにも書かれることを知っているからではないでしょうか。
それが名前(たとえば、Chihiro や Tatsuya)などの書き方の練習をするときには、以下のように変わっていませんでしたか。
また、コンピューターでローマ字入力する際には、どちらでも正しく入力できることは経験された方も多いと思います。2文字で書けるもの(ti と tu)をどうしてわざわざ3文字(chi と tsu)で書くのでしょうか。
理由は外国語話者(特に英語話者)に正しく発音してもらうためです。では、Tihiro や Tatuya と書いてしまったら、英語話者にはどのように発音されるでしょうか。Ticket やtuna などの単語の下線部の発音がヒントになるかもしれません。「チケット」や「ツナ」にはならないはずです。
さきほどの英単語をカタカナ表記すると、「ティケット」と「トゥナ」になります。ということは、Tihiro は「チヒロ」ではなく「ティヒロ」、Tatuya は「タツヤ」ではなく、「タトゥヤ」と発音されてしまいます。どうして、英語話者に正しく発音してもらおうとすると、ローマ字表記をより複雑にしないといけないのでしょうか。
答えは冒頭に述べた通り、日本語のタ行では t の音の発音がイ段とウ段で変わるためです。タ行の子音の部分(a,i,u,e,o の前の t)だけを発音できるでしょうか。慣れないとかなり難しいですが、器用さに自信があれば、のどに指を当てて、母音の a,i,u,e,o(今回のケースでは、ブルブルと振動しだす部分)の前の t だけを発音してみてください。もしできたら、ti と tu の t は音を伸ばすことができるのに対して、ta,te,to では音を伸ばせない(発音の仕方が違う)のに気づくかもしれません。また、発音する位置が変わることもわかるかもしれません。
仮に子音の部分を揃えるとしたら、つぎのようになります。(今回は同じ音が同じ文字で表されるように、ローマ字表記ではなく発音記号で示してあります。)それぞれの行(タ行、チャ行、ツァ行)を発音してみて、子音の部分の発音が同じであることを確認するのは、さきほどほどむずかしくはないと思います。タ行に使われているものを太字と下線で強調しましたが、3種類の子音を使っていることが分かります。
タ行には複数の子音が混ざっていることが、イチローを Itiro ではなく、Ichiro と表記する理由です。実は同じようなことがタ行以外でも起こっています。ローマ字に2通りの表記があるものを手がかりにぜひ探してみてください。