高校の教師をしていますが、生徒を呼ぶときに親しみを込めて「オマエ」と言っていいのか迷います。生徒たちは教師からの「オマエ」をどう受け止めているのでしょうか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』18号(2005、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
「オマエ」は、例えば仲のいい男性の友人同士で使われるなど、気の置けない間柄の人に対する気さくな呼び方と言えます。しかし、その一方で、やや乱暴な呼び方でもあり、時には相手に対する尊大な態度を感じさせるものであることも事実です。したがって、学校の先生が生徒を「オマエ」と呼ぶ場合、生徒と親しい関係を築こうとする姿勢の表れとなり得る一方で、生徒をぞんざいに扱っている印象を与えてしまう危険もないとは言えません。
国立国語研究所が行った調査から、東京の高校生が先生からどのように呼ばれ、またその呼ばれ方をどう受け止めているかを見てみましょう。
図1は、担任からどのような表現で呼ばれる人がどの程度いるかを示したものです。数値が小さい表現は省略しました。グラフに掲げた表現全てについて、生徒自身、呼ばれているか否かを答えてもらいました。授業中か否か、担任の性別は特に指定しませんでした。
これによると、姓の呼び捨てや「姓+クン」(男子)や「姓+サン」(女子)が、「キミ」「オマエ」等の代名詞以上に多いことが分かります。「オマエ」と呼ばれる生徒は、男子で15%、女子で9%にとどまります。
では、このように呼ばれることを生徒たちはどう受け止めているのでしょうか。各表現で呼ばれている生徒について、そう呼ばれるのが好きか嫌いかどちらでもないかを回答してもらったのが図2です。
「姓+クン」や「姓+サン」は「好き」の数値が比較的高いのですが、それ以外は意見が分かれます。特に「オマエ」は、男女とも「好き」よりも「嫌い」の数値が高くなっており、生徒の側から見ると、必ずしも好ましく思われていないようです。もちろん「オマエ」と呼ばれて「好き」と回答した生徒もいますので、好印象を持たれる場合もあることは確かですが、一律にどの生徒にも適用できるわけではないことも確かです。相手の反応を見ながら使用の適否を探る必要がありそうです。
様々ある表現の中からいずれかを選ぶというのは一体どういうことなのかを考えてみましょう。
一つは、相手との関係が現在こうであるからこの表現を選ぶということがあります。友達同士だから敬語を使わずに率直に話す、相手が目上だから(あるいは知らない人だから)敬語を使って話すなどです。
一方私たちは、「こうありたい」と思う関係を相手に示す意味で、言葉を選ぶということもしています。より親しい間柄になりたいと思う相手に、「○○クン」「○○サン」と呼ぶ代わりに、時々「○○チャン」や呼び捨てを使ってみることなども、その一つです。
言葉を選ぶということには、この二つの面があります。このうち後者では、相手がその表現をどう受け止めるかということも重要です。表現が快く受け入れられているか、相手に受け入れられるだけの適切な関係が形成されているか、という点への配慮が大切です。
(尾崎喜光)