ことばの疑問

「心尽くし」の「尽」の読み仮名は「ず」「づ」?「行なう/行う」「浮かぶ/浮ぶ」の送り仮名はどうでしょう

2024.06.27 田中牧郎

質問

「心尽くしの贈り物」の「尽」に読み仮名をつけるとしたら、「ず」「づ」のどちらでしょう。また、「行なう/行う」「浮かぶ/浮ぶ」の送り仮名はどうでしょう。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』14号(2001、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
「心づくし/心ずくし」「浮ぶ/浮かぶ」「行なう/行う」

回答

「ずくし」か「づくし」かのように、ある単語の表記において、同じ音に当てる仮名が二種類以上ある場合に、どちらの仮名を選ぶのが適切かが、問題になる場合があります。もともとは、平安時代に仮名がつくられたときには、例えば、「ず」は[zu]、「づ」は[du]というように、仮名の区別と音の区別とが、ほぼ一対一に対応していました。ところが、時代とともに発音は変化し、[zu]と[du]の区別はなくなり、同じ音に「ず」「づ」の二種の仮名が対応することになったわけです。こうした問題が起こる場合について、仮名の用い方に不統一や混乱がないように、決まりを定めたものが、仮名遣いです。

現代の一般の社会生活で用いる仮名遣いは、「現代仮名遣い」(昭和61年、内閣告示)がよりどころとなっています。これは、現代語の音韻に従って書き表すことを原則とするもので、表音的な方式ということができます。しかし語によっては、例外的に、戦前までの「歴史的仮名遣い」以来の慣習を尊重すると定めたものもあります。歴史的仮名遣いは、語源にさかのぼった音韻に従って書き表すことを原則とするものです。

「心尽くし」のような、二語が複合してできた語で、「ぢ」「づ」を含むものも、この例外に当たるものです。この語は、「心」と「くす」が複合したものですから、「づ」と読み仮名を付けることになります。現代語の音韻に従えば「お」「わ」「え」となるはずの助詞を、「を」「は」「へ」と書くことや、通常「おう」「ええ」と書く長音を、語によっては「公(おおやけ)」「映画(えいが)」などと書くとするのも、歴史的仮名遣いの慣習を尊重するものです。

ところが、「力ず(づ)く」の場合は、「力」と「尽く」が複合したものではありますが、現代語の意識では、そうした分解ができにくいものとして、「力ずく」と書くことを本則と定め、「力づく」と書いてもよい、としています。

以上のように、現代仮名遣いは、現代人がなるべく無理なく身に付けることができるように定められてはいますが、使いこなすには、歴史的仮名遣いの知識も必要とされるわけです。

「心尽くし」「力ず(づ)く」についてまとめた図

質問の後半の「行なう/行う」「浮かぶ/浮ぶ」については、「行なう」「行う」「浮かぶ」「浮ぶ」、いずれで書いても構いません。

日本語の文章は、漢字だけで書き表すことから始まり、平安時代に仮名が作られてからは、漢字と仮名を混ぜて用いることが一般的になりました。現代の書き言葉の源流となった漢字仮名交じり文では、概念を表す部分は漢字、関係を表す部分は仮名で書き表す、という傾向がありました。活用語の場合、語幹は漢字で語尾は仮名で書かれましたが、語尾をどこからと認めるかについては、個人、文章のタイプ、語によって、相当に揺れがありました。

明治以来、送り仮名の付け方に、一定の決まりを設けようという試みが続けられ、いくつかの試行錯誤を経て、「送り仮名の付け方」(昭和48年、内閣告示・訓令 昭和56年一部改定)、「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令)の「2 送り仮名の付け方について」「3 その他」がよりどころとなり、現在に至っています。「行なう/行う」は、本則では「行う」、許容で「行なう」を認めています。「浮かぶ/浮ぶ」は、本則で「浮かぶ」、許容で「浮ぶ」です。活用や品詞、語の成り立ちに従って本則を立てることで、整合的な法則としています。一方で、表記の習慣や、意識の揺れにも配慮して、例外や許容を認める、ゆるやかな面もあります。

以上見てきた、仮名遣いや送り仮名の用い方についての決まりは、法令・公用文・新聞・雑誌など、公的性格が強い文章のよりどころとして出されているもので、芸術や学問などの専門分野や、私的な文章にまで制約を及ぼすものでありません。

なお、仮名遣いや送り仮名の考え方や語例は、国語辞典の付録等にも示されていることが多いので、参照してみるとよいと思います。パソコンやスマホで文字を入力する際に用いる仮名漢字変換ソフトのなかには、決まりに従わない仮名遣いを自動的に修正したり、送り仮名の送り方を整えたりする機能を持つものもあります。

 

書いた人

田中牧郎

田中牧郎

TANAKA Makiro
たなか まきろう●明治大学 国際日本学部 教授。
専門は、日本語の歴史、日本語の語彙。国立国語研究所には、1996年から2014年まで在籍し、日本語コーパスの研究や、「外来語」や「病院の言葉」を分かりやすく言い換える研究を担当しました。編著書に、『近代書き言葉はこうしてできた』(岩波書店)、『図解 日本の語彙』(三省堂)など。

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