「やゝ」「人々」と書く場合の「ゝ」「々」などは、何と読む字なのでしょう。また、どのような種類があり、それぞれの由来はどうでしょうか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』14号(2001、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
同じ文字を繰り返すときに用いる文字や符号には、ほかにもいくつかあり、まとめて「踊り字」あるいは「繰り返し符号」などと呼びます。パソコンやスマホなどの入力の際、仮名漢字変換の必要から、読み方が話題になる機会が多いようですが、手書きや縦書きの衰退で、使われる場面は急速に狭まってきています。
次のようにいくつかの種類に分かれ、それぞれに独自の呼び名と使い方の習慣があります。①から⑤は、文字というより符号ですから読みはありませんが、⑥は漢字の一種で読みをもっています。
こうした踊り字の形や使われ方は、手書きによる縦書きのなかで培われてきた習慣によるものです。活字では、新聞の多くは「々」「〃」以外は使わないように定めていますし、最近では横書きやパソコンやスマホなどによる文章の入力が普及してきたために、様々な踊り字を使い分ける機会は少なくなってきました。しかし、手書きで手紙を書く場合など、踊り字の適切な使用が求められる場面も残っています。
それぞれの使い方についての詳細は、文化庁編『言葉に関する問答集 総集編』所収の、文部省「くりかへし符号の使ひ方〔をどり字法〕(案)」を参照してください(https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/sanko/pdf/kurikahesi.pdf)。なお、「々」は符号ではありますが、「佐々木」「奈々子」など、姓名に用いてもよいことになっており、「佐々木」と「佐佐木」は、戸籍上では区別されています。
踊り字の起源は古く、中国の殷の時代から、「」の形が、漢字を繰り返すことを表すものとして、見られます。日本でも奈良時代以前から使われています。万葉集に、「何時毛〻〻〻」(いつもいつも)とあるなど、二字以上の漢字の繰り返しにも用いられています。平安時代に、平仮名・片仮名がつくられると、仮名の繰り返しにも、はじめは「〻」が用いられましたが、これを略して「ゝ」や「ヽ」の形になったと言われています。
それぞれの形や用法の歴史については、まだ十分な調査が行われていませんが、「〱」の形の由来は、当時書かれたままの資料が豊富に残っている、漢文に読み方(訓点)を書き入れた文献(訓点資料)の調査によって、興味深い事実が明らかになっています。二字以上の繰り返しでは、はじめ「マ、スヽ」(マスマス)のように書いていました。この、一点めの「ヽ」と二点めの「ヽ」がつながって、以下の図のようになり、さらに起筆が二字めの後に下りて、「マス 〱」と変化し、「 〱」が成立しました。
「〃」は、外国語の繰り返しに用いられる「〃」に由来するものと言われています。