日本に住む外国の方が増えていますが、その子どもたちへの日本語学習サポートはありますか?

国や自治体、そして学校や企業などが子どもたちの生活や学習、進路のサポートに取り組んでいます。近年、特に必要となっているのは、来日した子どもたちが住んでいる場所や経済的事情によって誰一人取り残されることのない環境づくりであり、従来の支援のさらなる拡充に加えて、ICT(情報通信技術)や、AI(人工知能)技術も活用した多角的な環境整備が不可欠です。また、そうした環境とサポートの要となる日本語の研究や、支援者の育成も必要となっています。

外国から日本に来て住んでいる方々の数は過去最高を更新し、2022年には初めて300万人を突破しました。国籍や民族などの異なる人々が同じ地域内で共に暮らすということは決して珍しいことではなくなり、互いのちがいを認め合い、対等な関係の中で「共生」することの大切さへの認識が広がりつつあります。
この背景には、世界のグローバル化におけるモビリティの拡大、そして日本の少子高齢化による人口減少があります。持続可能な社会発展に向けて、日本で生まれ育った人々だけでなく、海外の人々にも日本で生活したり働いたりしながら社会を築いてほしいという機運が広がり、2022年3月の教育未来創造会議において次のような方針が示されています。
世界最先端の分野で活躍する高度専門人材や多様な価値観を持った人材を育成・確保するとともに、多様性と包摂性のある持続可能な社会を構築することにより、我が国の更なる成長を促していきます。
(岸田文雄総理「教育未来創造会議」、2022年)
日本は、多様な人々が集い共に社会を築いていく「共創」の段階に入っています。そして、人々が相互に理解し協働するための共通基盤である日本語でのコミュニケーションは、ますますその重要性を増していると言えるのです。
戦後、さまざまな形で日本語を第二言語として学ぶ子どもたちがいましたが、日本国内において外国ルーツの子どもたちに目が向けられるようになったのは、インドシナ難民(1975年以降に生じたベトナム・カンボジア・ラオス難民)受け入れの時でした。
1983年3月11日放送のNHK『福祉の時代 難民を受け入れて〜大和定住促進センターの3年〜』では、アジア福祉教育財団難民事業本部・大和定住促進センターが紹介され、定住する2,077名の難民の中で、特に子どもの衣服が足りないことや、子どもの日本語支援が急務であることが報道されています。大和定住促進センターでは、13週間の日本語教室が開講され、さらに、近くの大和市立南林間小学校のPTA、校長、教師らが協力して、県から派遣された日本語教育専門家が教えるプログラム作りが行われました。番組では、子どもたちが登下校時の日本語での挨拶の仕方や在校時の学習の仕方、生活で必要な表現などを学ぶ様子が映し出され、「子どものための日本語教育」というものの存在が広く社会に知られるきっかけの一つとなりました。
その後も、中国からの帰国者(先の大戦後に帰国が叶わず1972年の日中国交正常化以降に帰国した日本人とその家族)の支援のために、1984年に中国帰国者定着促進センターが設置され、子どもたちへの日本語支援も行われました。また、1990年代には、南米を中心に来日した日系人とその家族へのサポート、さらに2000年代に入ると、増加する在住外国人とその家族への日本語サポートが注目され対応が行われるようになりました。
制度的な検討も進み、日本語の指導を教育課程の一部の時間に替えて行えるようにした「特別の教育課程」が2014年度から導入されました。さらに、第二言語としての日本語教育を専門とする先生を子どもの数に応じて各学校に配置できるようにする制度(子ども18名/教員1名)が2017年からスタートしました。他にも、学習を補助するためのガイドブックや教材の提供などが行われています。
異なる事情を持ち異なる国・地域から来日した子どもが増える中で、その多様な特性に根差した支援も必要になってきています。例えば、子どもの母語だけを見ても図1(前掲)のようにさまざまなのです。
また、当初は、工業地帯や大都市部などに集住する傾向にあった外国の方々が、広く全国各地に広がる中で(以下図2を参照)、外国ルーツの子どもが多く学ぶ地域と、少ないけれども支援が必要な地域とが生じ、地域格差の是正が問題になっています。場所や経済状況に制限を受けない誰一人取り残さないサポート体制が求められ、ICTやAIを活用した教材開発も喫緊の課題となっています。

こうした子どもたちへの支援に加え、そもそも、子どもたちが必要とする日本語とは何かという視点も重要になってきています。というのも、日本語の学習と教育には、その学習言語(日本語)が、学校や地域社会でいかに使用され、子どもたちがどのように必要としているのか、学ぶ上でつまずきやすい部分は何か、学校の教科ごとにどのような表現が使われるのかなど、子どもの「日本語の世界」が正確に把握されていなければ、本当に子どもたちが必要とするサポートはできないからです。
国立国語研究所をはじめとする機関で開発されたコーパスは教育現場でも重要な参照基準となります。また『多世代会話コーパスに基づく話し言葉の総合的研究』などの新たな言語資源や、『多言語・多文化社会における言語問題に関する研究』などの言葉と社会を広い視野で分析する研究も大きな影響を与えるものと考えられます。そして、『COSMOS』のように子どもの学習に特化したデータベースの開発も各所で広がっていくことでしょう。
さらに、そうした実態を調査したり、教える方法を考察したりすることのできる専門家の育成も重要です。専門機関での研究者・教員の養成や、専門家が研修を受けられるシステム作り、知識や技術を更新できる体制整備が急務となっています。『Himawari』のように国内外のどこからでも研修を受けられるシステム開発などが肝要です。
現在、日本語を必要とする子どもへのサポートの必要性と課題を社会全体で把握し、それぞれの立場でアクションプランを立て、協業しながら実践してゆくことが求められています。日々の暮らしや地域社会での隣人へのささやかなサポートも共創社会の活動の一つと言え、また、そのためにコーパスを参照したり勉強したりすることも、新たな社会を築く上での重要なアクションになると思います。みなさんも是非、身近な場面から自分なりの課題とアプローチを見つけ、解決に向け周囲と協力して取り組んでみてください。
