Vol. 12-2 (2023年4月公開)
国立国語研究所の研究者が関わった書籍を紹介します(2022年7〜12月発行)
一般財団法人人文情報学研究所〈監修〉
石田友梨、大向一輝、小風綾乃、永﨑研宣、宮川 創、渡邉要一郞〈編〉
文学通信、2022年7月
本書は、文学・言語学・歴史学などの人文学において、テキストデータを効率的に管理・分析するための基礎知識を提供する入門書です。TEI(Text Encoding Initiative)ガイドラインに準拠したテキストデータ構築の方法を紹介し、実際のプロジェクトに取り組むための具体的な手順を解説しています。第1 部は人文学のためのテキストデータ構築全般への導入編です。第 2部は実践編で、手書き文字認識ソフトによるテキストデータの作成と TEI ガイドラインでのテキストデータの構造化について解説しています。第 3部と第 4部は事例編で、TEI によってテキストを構造化し分析したさまざまな例を掲載しています。このように、本書はテキストデータの利用を考えている人文学の研究者にとって役立つ入門書となっています。(宮川 創)
青木博史、岡﨑友子、小木曽智信〈編〉
ひつじ書房、2022年10月
「日本語歴史コーパス」の最初のバージョンが公開されて約10年になります。ほぼ毎年、各時代の資料が追加されるにつれて、このコーパスは日本語の歴史研究の分野に欠かせないものになってきました。本書は、このコーパスの構築・活用を行ってきた国語研「通時コーパス」プロジェクトの中古・中世(平安時代から室町時代まで)を担当したグループが行った研究をまとめたものです。コーパスを用いる日本語史研究全体を視野に入れた展望論文 2編のほか、歴史コーパスの活用例としても読むことのできる研究論文 7編、そして中古・中世のコーパスの解説 6編から成ります。最新の研究論文集として価値があるだけでなく、先に刊行された『近代編』、今後刊行される『近世編』と共に、コーパスを使った日本語史研究に取り組もうとする人にとっての良きガイドとなるに違いありません。(小木曽智信)
野山 広、福島育子、帆足哲哉、山田 泉、横山文夫〈編〉
ココ出版、2022年10月
本書は、東京都葛飾区において多様な背景の人々が共生する社会の実現を目指し、地域の日本語教室がいかに設立され、日本語支援の諸活動が住民主体でどのように実施・展開され、その試行錯誤の過程を経て何が見えてきたのかについて記述しています。第Ⅰ部では「外国籍住民に対する地域での学習支援の実践」について葛飾区での取り組みを、第Ⅱ部では「外国籍児童生徒に対する教室での学習支援の実践」について各地の事例をそれぞれ紹介し、第Ⅲ部では「 NPO 法人による子どもサポート」に焦点を当てています。このように地域住民と行政の連携・協働の重要性に言及しつつ、第Ⅳ部には連携・協働、諸活動を支える考え方を示す論考を収録しています。本書が、多文化社会の実現を目指す地域社会において草の根の住民活動が果たす意義や課題を探究、確認する一助となれば幸いです。(野山 広)
Hajime Hoji, Daniel Plesniak and Yukinori Takubo〈Eds.〉
De Gruyter Mouton、2022年11月
本書は、言語能力を精密科学として研究する方法を具体的に示したものです。人間は一定の年齢(3〜5歳)になると「人間の言語」を話すようになります。この能力は人間にしかないもので、しかも、人間の言語は離散無限と階層構造を持ち、その階層構造に基づいた規則を有しています。これは、鳥などの「言語」にはない、人間の言語だけが持つ性質と考えられています。しかし、この離散無限と階層構造(およびそれに基づく規則)は、単に前提として使われており、実験を通して科学的に示されたことはないと言えます。本書では、どのようにすれば、それを精密科学的な「仮説と再現可能な実験」で示すことができるか、ステップを踏んで示しています。志を持った若い研究者が本書を通じてこの分野に入ってこられることを切に望みます。(田窪行則)
Makoto Yamazaki, Haruko Sanada, Reinhard K.hler, Sheila Embleton, Relja Vulanović and Eric S. Wheeler〈Eds.〉
De Gruyter Mouton、2022年11月
本書は、2021 年 9 月に NINJAL 国際シンポジウムとして開催された QUALICO 2021(第11回国際計量言語学会大会)での発表の中から選ばれた 16本の論文を掲載した論文集で、執筆者は 13か国、34名にわたります。本書で扱われている研究分野は、音韻、語彙、文法、文体、著者推定、自動分類など言語研究から言語処理研究まで幅広い内容をカバーしています。対象となっている言語は、チェコ語、中国語、イタリア語、日本語、ポーランド語など、12を数えます。計量的な手法が分野や言語を問わず普及していることがうかがえます。本書には、Zipf の法則に代表される既存の言語法則に関する検証などの論考のほか、新たな法則を見いだそうとする試みなど、さまざまな研究が収録されています。(山崎 誠)