新しい言葉ってどうやってできるのですか?
毎年、「新語・流行語大賞」が決まっているのをご存じでしょうか。2019年は「タピる」(タピオカミルクティーを飲むという意味)、2021年は「親ガチャ」(親によってその後の人生が大きく左右されるにもかかわらず子どもは親を選べないという意味)といった新しい言葉(新語)が入賞していました。
このような新語が生まれる理由は様々で、複数の要因が同時に成り立ちますが、ここでは、(1)社会的理由、(2)心理的理由、(3)言語的理由の3つを紹介します。
新語には、「完全に新しい言葉として作られたもの」と、「既存の言葉を使って作られたもの」があります。ただし、前者の「完全に新しい言葉として作られたもの」というのはほとんどないと言われています。「もふもふ」「ぴえん」といった新しいオノマトペがこの数少ない例に該当します。
一方、後者の「既存の言葉を使って作られたもの」の場合、様々な作られ方があります。最も多いのは、複数の言葉を組み合わせる「合成」という方法です。冒頭で例に挙げた「タピる」という新語も、「タピオカミルクティー」を略した「タピ」という言葉と、名詞を動詞化する「る」(例 : メモる、事故る)という言葉を組み合わせて作られています。また、「親ガチャ」という新語も、「親」と「ガチャ」(ソーシャルゲームなどでランダムにアイテムを取得するシステム)という言葉を組み合わせて作られています。
ほかにも、「アルバイト」を「バイト」のように略す「省略」という方法、ドイツ語の「ワクチン」やオランダ語の「カステラ」のように外国語から言葉を借りてくる「借用」という方法もあります。
新語は、「タピる」「親ガチャ」のように社会の中で広く用いられるようになったものに限りません。実は日々の生活の中でみなさん自身によって作られ、そして消えていく新語もたくさんあります。
個人が新語を作る動機の1つに、「相手に伝えたいことがあるけど、それを的確に伝える言葉が思いつかない。でもなんとかして伝えたい!」というものがあります。
例えば、「前から歩いてくる人にぶつからないように左右に避けようとしたところ、相手も同じような動きをしてぶつかりそうになった」という経験はありませんか。このような経験を人に話したいけれど、このことを簡潔に表す言葉が思いつかない場合、みなさんだったらどんな名前をつけて相手に伝えますか。
これまでの研究(黒崎貴史「熟議を利用した新語形成プロセスに関する研究」)によると、上記のような事態に以下のような名前が付けられていたことがわかりました。
どれもこの事態の特徴をよく表す言葉(譲り合い、相互回避、ミラーリング)と、「現象」という言葉を組み合わせて作られています。
複数の言葉を組み合わせて新語が作られる場合、「譲り合い+現象」「相互+回避+現象」のように、「名詞」と「名詞」の組み合わせがよく見られます。しかし、上記の研究では、次のような名前もつけられていたそうです。
これらの新語は、この事態に直面したときの気持ちを端的に表す「セリフ調の言葉」を取り入れるという方法で作られています。このようなセリフ調の言葉を取り入れた新語の例は、「振り込め詐欺」「早く帰れオーラ」「頑張ってますアピール」など、数多く見られます。
セリフ調の言葉を取り入れるという方法は、これまでの新語の作られ方にはほとんど見られなかったため、新語の「新しい作られ方」とも考えられます。
「譲り合い現象」と比べると、「道譲り合っちゃったよ現象」のほうが、その場の状況やその人の心情がより具体的になるのではないでしょうか。自分のイメージが相手により伝えやすくなるという狙いも、このタイプの新語が広く用いられる一因となっているのかもしれません。
新語は人によっては違和感があり、言葉の乱れという見方もあります。ですが、大昔に新しく生まれた言葉も当時は物珍しさがあったはずですが、現代では何の変哲もない普通の言葉として使われていることもあります。
みなさんが新しく作った言葉が、SNSなどで拡散され、数年後には辞書に掲載され、100年後にはごく普通の言葉として使われているかもしれません。新語が作られるということは、言語が長い年月をかけて変化していく最初のきっかけにつながっているとも言えるでしょう。