絵文字、スタンプなどは、「嬉しい」「美味しい」のような送り手の感情や知覚以外に、何を表していますか

LINEなどのチャットツールでは、日常的に絵文字、スタンプ、画像などがしばしば使用されています。それらは例えば、「嬉しい」、「美味しい」のような送り手の感情や知覚だけを表しているのでしょうか? 答えは否です。オンライン文字チャットで使用されているこうしたものは、私たちが普段意識もしないうちにさまざまな役割を果たしてくれています。次に、例を挙げながら見ていきましょう。
まず、一番シンプルな例から見てみましょう。

受け手のメッセージでは、親指を立てるという身体動作を表す(模倣する)文末の絵文字が「いいね」という評価の意味合いを強めているといえます。その逆の効果もあります。

「伊勢神宮が岐阜にある」と勘違いしている送り手(右)に対して、受け手(左)は、「(伊勢神宮は三重ですね…[汗をかいた笑顔]」と回答する際に、括弧( )と、三点リーダー「…」に続いて「汗をかいた笑顔」の絵文字を付けて送信しています。
「伊勢神宮は三重です(にあります)」という内容自体は、客観的に述べられた(真偽判断が可能な)事柄(「命題」と言います。『明解言語学辞典』、峯島宏次の説明による)ですが、相手の間違った認識(岐阜に伊勢神宮がある)が含まれるメッセージの後に送信されていることから、ここでは相手への「指摘」のニュアンスが読み取れます。このような指摘のメッセージを送信する時に括弧を使うことで、それが注釈や補足であることを示し、三点リーダーで間や気持ちを示しています。さらに、「汗をかいた笑顔」の絵文字を使用することで、「相手への指摘の強さ」を和らげる、という対人関係の配慮を果たしているものだといえるでしょう。こうしたチャットテキスト文字に強弱をつける機能は、日本語オンライン文字チャットにのみ見られるものではなく、例えばスペイン語のオンライン文字チャットを取り上げて分析したSampietroの論文でも類似したことを報告しています(Sampietro. Emoji and rapport management in Spanish WhatsApp chats, Journal of Pragmatics, 143, pp.109-120.)。
1.では、地の文の意味を強めたり、弱めたりする絵文字の働きを見ました。一方で、絵文字は、受け手によるテキストへの理解を全く異なる方向性に持っていくように働きかけることも可能です。次の作例を見てみましょう。
3)と4)は、文末の絵文字があってもなくても、文末の終助詞「の」があることで、相手への「問いかけ」であることは変わりません。しかし、眉毛が吊り上がり、口角が下がっている赤面の絵文字がついている3)と(涙が出るほど)笑っている絵文字がついている4)で、受け手が持つ印象が変わるでしょう。3)を受信した場合は、親が本気で怒っていて今夜は家に帰りづらい気持ちになるかもしれません。それに対して4)は、多少不満なニュアンスがあるとしてもそれほど深刻さが感じられなく、どちらかといえば冗談半分で言われている気持ちになり、場合によっては親が許容しているニュアンスすら感じられるかもしれません。
ここでの絵文字は、今ここで送信したメッセージが、「本気で怒って言っている」のか、「冗談として言っている」のか、受け手の理解を導くための手がかりとして働いています。このように、コミュニケーションでいかにお互いの話(に限らず、行為)を理解すればよいか、その手助けとなるものを言語人類学者のGumperzが「コンテクスト化の合図」(Gumperz. Discourse strategies, p.131 より)という概念を使って説明しています。
3)と4)の絵文字は、日常の対面コミュニケーションで私たちがそれとなく使用している声の調子や笑い(パラ言語的資源と言います)や、相手へのウィンクといった身体表現(非言語的資源と言います)の役割を果たしているといえるでしょう。絵文字のこうした働きは、若者の携帯メールにおける絵文字の使用(三宅和子「携帯メールの話しことばと書きことば:電子メディア時代のヴィジュアル・コミュニケーション」、『インタラクションと学習』p.255)や、10代〜20代の日本人女性による口語的手紙文における絵文字の使用(片岡邦好「口語的手紙文における字体と絵文字の指標的特性:その特殊性と普遍性について」、『論集:異文化としての日本』p.108)など、スマートフォンが普及する前から様々な研究で論じられてきています。
ここまで、文末の絵文字は、テキストの意味に強弱をつける働き、受け手の理解を導くための手がかりとしての働きがあることを紹介しました。どちらも絵文字がテキストメッセージに意味を足すための補助的な役割として果たしているように見えます。しかし、オンライン文字チャットにおけるビジュアルコミュニケーション要素は多様であり、そういった補助的な機能だけとは限りません。次にスタンプを使用した実際のチャット例を見てみましょう。
例5)と6)は、異なる知り合い同士によるチャットです。内容も異なっていますが、いずれも、「よろしくお願いします」と、会話が終わろうとする位置で、それに対する返事としてスタンプが使用されています。5)は、親指を立てるスタンプで、6)は「お安い御用だ」という文字と親指を立てるキャラクターが入っているスタンプです。同じ位置で送り手は「よろしくお願いします/よろしく」、「お安い御用だ」のように、テキストで返信することも可能です。しかし、実際は、どちらの送り手もスタンプを使っています。なぜでしょう?ここでは、「いいね、よろしく」の意味や、「お安い御用だ」という意味だけではなく、「これまでの一連のチャットはここで終わってもいい」、「もうこれ以上返信しなくてもいい」という意味も含んでスタンプが選択されたと考えられます。実際、5)と6)の会話は、両方ともスタンプのところで終了しています。つまり、スタンプは、オンライン文字チャットで、「これ以上返事がなくてもよい/続かなくてもよい」ことをほのめかす、「一連の会話を閉じてしまう」役割をもてることがわかります。この点に関連して、大学生が参加するLINEチャットのメッセージを分析した岡本能里子、服部圭子も、文字スタンプは、話題の全体の終了を導くことができると指摘しています(「LINE のビジュアルコミュニケーション:スタンプ機能に注目した相互行為分析を中心に」、p.139)。
ところで、オンライン文字チャットで利用されている絵文字とスタンプ、画像などは、参加者の文化的知識も反映します。
例えば、日本語のチャットでは単なる微笑みにしか見えない絵文字は、実は、中国語のチャットでは、どうしようもない気持ちや皮肉といったマイナスの意味で使用されることもあります。以下の例を見てみましょう。
チャットの1・2行目では、共通の友人の誕生日会に、Aが「○○の誕生日会は来週の土日に延びた」ことを伝えたうえでBに来てくれと誘っています。ですが、この誘いは二回目で、一回目の誘いでは、Bはバイトで都合が合わないと断っていました。しかし、今回もBは都合がつかないため、「金曜日の夜にしてくれたらどうだい!!」、「バイトする人間が泣き倒れる」と悔しい気持ちを込めた返信をしています。

Bのメッセージには、「微笑の絵文字」が複数回使用されていますが、いずれも単なる微笑みを表す意味で使用されているのではありません。相手が提案した日程が毎回自分の都合に合わないという事態に対して、どうしようもない気持ち、皮肉ろうという気持ちを表しています。こうした「微笑の絵文字」が持つ皮肉っぽい意味を理解するには、中国語のオンライン文字チャットでその記号がどのような意味合いで使われているか、という社会文化的な文脈が必要となります。次に、日本での社会文化的な文脈を必要とするコミュニケーションを見てみましょう。

ここでは、学会での発表を間近に控え、修正した原稿を送信した送り手は、「ねばります」というメッセージとともに、「糸を引いた納豆」の画像を送信しています。ある目標を達成するために根気よく、辛抱づよく頑張る様子を、あるものが「伸びてちぎれにくい状態にある」(『デジタル大辞泉』より)ことと関連づけて理解することは、「ねばる」という日本語のことばに含まれる複数の意味と、「納豆をまぜると糸が引いてねばねばする」という日本(を中心とした)文化的知識を引き合いに出すことで、はじめて可能になります。日本語、日本の文化的背景知識を持たない相手にこのような画像を送信しても、受け手を困惑させるだけでしょう。オンライン文字チャットにおけるこうした画像の使用は、特定の社会文化的知識が関与しており、チャットの送り手、受け手の社会文化的知識を反映する場合があります。
この記事では、オンライン文字チャットで送り手が送信した絵文字、スタンプ、画像は、テキストの意味に強弱をつけたり、コミュニケーションを理解するための手がかりとなったりすること、また、一連のチャットを閉じる役割で使用されたりすることを説明しました。さらに、社会文化的知識を反映するものにもなりうることを説明しました。日常で何気なく使われている絵文字、スタンプ、画像が表しているのは、送り手の感情や知覚だけではないことがお分かりいただけたでしょうか。
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