ことばの疑問

「匹」に「ひき」「びき」「ぴき」の読み方があるのはなぜですか

2024.11.27 窪薗晴夫

質問

「匹」に「ひき」「びき」「ぴき」の読み方があるのはなぜですか。

「匹」の読み方はどうして1ぴき、2ひき、3びき

回答

「匹」はハ行音で始まる助数詞

「匹」は物を数える時に使う助数詞と呼ばれるもので、数詞(数字)と組み合わせて使われます。「匹」以外にも「頭、個、本、枚」などの助数詞が多数あることからも分かるように、日本語は助数詞が発達した言語で、犬や猫などの小動物は「匹」、馬や牛は「頭」、ボールやリンゴは「個」、鉛筆などは「本」、紙類は「枚」というように、何を数えるかによって使い分けをします。

助数詞の大半が漢語(中国語由来の語)ですが、それらは(1)のように、前に来る数詞によって発音が変わらないものと、(2)のように発音が変わるものの2種類に大別できます。たとえば(1)の「回」は前の数詞が1でも2でも3でもカイという発音ですが、(2)の「匹」は1匹(イッキ)、2匹(ニキ)、3匹(サンキ)というように3通りに発音されます。

  1. 発音が変わらない助数詞
    回、巻、機、個、合、号、冊、じょう、台、題、代、点、度、秒、文、枚、問…
  2. 発音が変わる助数詞
    【a】 p~h~bで変わるもの
    匹(hiki)、本(hon)、遍(hen)、杯(hai)
    【b】 p~hで変わるもの
    発(hatu)、筆(hitu)、拍・泊(haku)、分(hun)、品(hin)、波(ha)、敗(hai)、票・俵(hyoo)、府(hu)、歩(ho)

(1)と(2)を比べてみると、(2)の助数詞はハ行音(ハヒフヘホ)で始まるもの、(1)はそれ以外という違いがあることが分かります。つまり、(2)の助数詞にはハ行音(ハヒフヘホ)で始まるという特徴があります。

さらに(2)の助数詞をよく見てみると、「匹」のように3通りの発音(キ、キ、キ)を持つものと、「発」のように2通りの発音(ツ、ツ)しか持たないものの2種類があることが分かります(数の上では(2b)の「発」タイプの方が多いようです)。数詞との関係をまとめてみると表1のようになります。

表1 数詞と助数詞の発音の関係を示した表。(2a)一匹タイプの「p」を持つ数字は1、 6、 8、 10。「h」は2、 4、 5、 7、 9。「b」は3のみ。(2b)一発タイプの「p」を持つ数字は1、 3 、 6、 8、 10。「h」は2、 4、 5、 7、 9。「b」はなし。
表1 数詞と助数詞の発音の関係

ハ行音の特殊性

では、なぜハ行音で始まる助数詞には複数の発音が出てくるのでしょうか。その一つの理由は、日本語のハ行音が時代によって発音を変化させたことにあります。ハ行の音は昔、パピプペポという発音でした。

(昔)パピプペポ  (今)ハヒフヘホ

たとえば母(はは)は昔パパと発音されていました。ヨーロッパの言語や中国語などではパパは父親、ママは母親を意味しますが、日本語では母親がパパと発音されていたわけです。「昔ママはパパだった」という面白い表現がありますが、これは「昔お母さんはパパと呼ばれていた」という意味です。

ハ行音が昔パピプペポという発音だったことは、「光」や「ひよこ」に痕跡をとどめています。今でも光はピカッと光り、ひよこはピヨピヨ鳴きますが、名詞(光、ひよこ)の方がピからヒへと発音を変化させたのに対し、オノマトペ(擬音語、擬態語)の方は昔の発音をとどめているのです。

(名詞)ピカリ → ヒカリ(光)、ピヨコ → ヒヨコ(雛)
(オノマトペ) 昔も今も ピカッ、ピヨピヨ

1匹(piki)と2匹(hiki)の違い

では、表1に現れる /p/ と /h/ の違いはどこから生じるのでしょうか。一匹(イッピキ)と二匹(ニヒキ)を比較して分かるように、/p/ の場合は常に促音(ッ)を伴って現れます。つまり促音が後続する場合には古い /p/ という発音が現れるのです。促音が現れるだけであれば、一匹や六発はイッキ(ihhiki)、ロッツ(rohhatu)となってもおかしくないのですが、ハ行の促音(hh)は発音が難しいため、昔の発音である /pp/ という形が現れると考えられます。

ではなぜ1、 6、 8、 10の場合に促音が現れるかというと、これらの数詞が日本語に入ってきた時に子音で終わっていたことと関係しているようです。2(ni)、 4(si)、 5(go)、 9(ku、 kyuu)が母音(a、 i、 u、 e、 o)で終わっていたのに対し、1(it)、 6(rok、 rik)、 8(hat)、 10(zit)は子音で終わっていました(この特徴は今でも中国語の上海方言(上海語)に残っています)。数詞が子音で終わっていたら、「匹」や「発」と結びついた時にその子音が促音として残ったのです。

一匹 :   it + piki → ippiki
六発 :   rok + patu → roppatu

1,2,4,5,6,8,9,10の数に匹を付けた時にどう変化したのかを表した表。数詞が子音で終わるから促音が表れるが ハ行の促音(hh)は発音が難しいから昔の日本語の発音(pp)が現れる。

三匹ではなぜ「匹」が濁るか

最後に(2a)のグループで3に続く「匹」や「本」がキ、ンと濁ってしまう理由を考えてみましょう。ヒキがビキ、ホンがボンとなるのは連濁と呼ばれる現象で、亀(カメ)や棚(タナ)が「海亀」「本棚」の中でメ、ナと濁るのと同じ現象です。ただし、「亀」や「棚」が和語(日本語本来の単語)なのに対し、「匹」や「本」は漢語(中国語由来の語)です。一般に漢語は連濁を受けにくいとされており、同じカイでも、和語の「貝」は赤貝、二枚貝のように濁りますが、漢語の「会」は新年会、反省会のように濁りません。

ではなぜ「匹」や「本」は漢語なのに「三匹」「三本」で濁るのかというと、数詞の3(san)が撥音のンで終わっているからです。ンは鼻にかかった音(いわゆる鼻音(びおん))ですが、言語一般に、鼻音の後ろでは濁りやすい(専門用語を使うと「有声音」になりやすい)という傾向があります。「匹」や「本」が3(san)の後ろで連濁するのはこのためです。

この傾向も助数詞に限ったものではなく、「千(せん)」「国(こく)」「藤(とう)」なども漢語でありながら撥音(ン)の後ろでは濁る傾向を見せます(表2の下線部)。

表2 「千、国、藤」の連濁を示した表。千で「濁る」のは三千。「濁らない」のは二千、五千。国で「濁る」のは戦国、隣国、本国。「濁らない」のは外国、異国、愛国。藤で「濁る」のは安藤、遠藤、権藤。「濁らない」のは斎藤、伊藤、加藤。
表2 「千、国、藤」の連濁

四匹、四本ではなぜ濁らないか

3(サン)はンで終わるから連濁を引き起こすとなると、四匹や四本はどうしてヨンビキ、ヨンボンと濁らないのかという疑問が生じます。鋭い疑問です。

数詞の4はもともとヨンではなくシと読まれていました。今でも1、 2、 3、 4…と数える時は4をシと発音し、「二十四の瞳」(壺井栄の小説)や「四六時中」「四苦八苦」などの決まり文句でも4をシと音読みしています。四匹や四本ももともとはシヒキ、シホンだったわけです(今でも年配の人の中にはそのような古い発音を残している人がいます)。4をシと読むと、「死」と同じ発音になってしまい―たとえば四人と死人が同じ発音になってしまい―、死を連想させるようになります。このように縁起の悪いことを連想させる言葉を忌み言葉と言いますが、4=死という連想を避けるために4は和語読み(訓読み)のヨンに置き換えられるようになりました。四匹や四本も、この置き換え過程を経てヨンヒキ、ヨンホンと発音されるようになったと考えられます。

四    :  シ → ヨン
四匹 :  シヒキ → ヨンヒキ
四本 :  シホン → ヨンホン

書いた人

窪薗晴夫

窪薗晴夫

KUBOZONO Haruo
くぼぞの はるお●神戸大学および国立国語研究所名誉教授。
1957年、鹿児島県生まれ。エジンバラ大学Ph.D.(言語学、1988年)。専門は音韻論・音声学。神戸大学等を経て国立国語研究所教授(2010~2022年)。近著に『一般言語学から見た日本語のプロソディー—鹿児島方言を中心に—』(2021、くろしお出版)『一般言語学から見た日本語の語形成と音韻構造』(2023、同)、Word and Sentence Prosody: The Endangered Dialect of Koshikijima Japanese (2023, De Gruyter Mouton) など。

参考文献・おすすめ本・サイト

参考文献

  • 窪薗晴夫(2011)『数字とことばの不思議な話(岩波ジュニア新書)』岩波書店
  • 窪薗晴夫(2019)「連濁と形態音素交替」、窪薗晴夫 編著『よくわかる言語学』ミネルヴァ書房