日本語には方言がいくつありますか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』16号(2003、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
日本語の方言は、さまざまな観点での分類が可能です。図1 は方言研究の世界で現在も利用されることが多い東条操による分類図です(東条操「序説」『日本方言学』、加藤正信「方言区画論」『岩波講座日本語 11 : 方言』)。このような方言の分類とそれを表す地図は、方言区画・方言区画図と呼ばれます。この分類では、全国の方言は、まず、本土方言と琉球方言に大きく分かれます。本土方言は、東部方言、西部方言、九州方言に分かれます。東部方言は北海道方言・東北方言・関東方言・東海東山方言・八丈島方言(現在は青ヶ島・八丈小島を含めて「八丈方言」とするのが一般的です)に、西部方言は北陸方言・近畿方言・中国方言・雲伯方言・四国方言に、九州方言は豊日方言・肥筑方言・薩隅方言にそれぞれ下位分類されます。また、琉球方言は、奄美方言・沖縄方言・先島方言に下位分類されます(大西拓一郎「コラム6」、国立国語研究所『新「ことば」シリーズ16 ことばの地域差―方言は今』を参照)。
地図では、方言の区画が境界線として提示されています。しかし、この境界線は、おおまかな目安に過ぎません。境界線のあちらとこちらでことばが突然変わるということではなく、実際には境界線を境に徐々に変化するものだと理解して下さい。ただし、東条の大分類である本土方言と琉球方言は、海上の境界線を境にして大幅に変わります。
図1 は、総合的な観点による分類ですが、そのほかの観点からの分類・区画もあります。
図2 は主にアクセントに基づく区画で(金田一春彦「私の方言区画」『日本の方言区画』)、図3 は敬語をもとにした区画です(加藤正信「方言区画論」『岩波講座日本語 11 : 方言』)。このように見方によって方言の分類や境界線は変わってきます。ですから、何によって分類するかで「いくつ」という答えは違ってくることになります。
(大西拓一郎)