日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字の4種類の文字を使いますが、このように複数の文字を使うのは日本語だけなのでしょうか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』15号(2002、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
現代の日本語は、一般に漢字とひらがなとカタカナを交えた漢字仮名交じり文で表記されています。さらに、ローマ字で日本語の単語や文章を書くこともあり、4種類の文字体系を使用している言語は、世界的に見てかなり珍しいといえます。さらに、次のような文も見ることがあります。
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(『月刊カドカワ』1994年7月号、p.354)
この一文に使われている文字を分けてみると、外来語を含めた日本語を表記するために、6種類の文字が使われています。
ギリシア文字は特定の語にしか使われず、字の種類も限られていますが、数字はアラビア数字のほか漢数字(「一」「二」「百」など)やローマ数字(「Ⅰ」「Ⅱ」「Ⅷ」「ⅱ」「ⅳ」など)も一般に使われます。
外国に目を向けると、例えば英語など欧米の言語は原則としてローマ字(アルファベット)で書かれます。中国語は漢字、韓国語はハングルによる表記がほとんどで、ローマ字は日本ほどは通常使われないようです。ハングルにはひらがな、カタカナのような区別はありません。これらの文章ではアラビア数字、まれにギリシア文字やローマ数字が加わるくらいです。
このほか日本語表記の中では、先の雑誌の文にも見られたように文字のほかに記号が使用されています。これにも、中国に起因する「ー」「、」「。」「々」、欧米に由来する「+」「&」「、」「!」「’」などがあり、縦書きの「。」「、」が、横書きになると「.」「、」と変わるような様式もあります。
前に述べた日本の文字の名前には、「漢」(中国)「ローマ」「ギリシア」「アラビア」を冠したものが使われていて、日本人が文字を諸外国から柔軟に受け入れてきた歴史がうかがえます。このほか、古代にインドから伝わった梵字も寺院などで見かけることがあるでしょう。
それぞれの文字は、1994年に刊行された月刊雑誌70種を例に挙げると、次のような比率で使われています(ギリシア文字など数が少ないものは省略し、記号類を含めた。単位は%。四捨五入したので合計は100.0にならない。国立国語研究所『現代雑誌の漢字調査』、2002)。
これは、100字の中にひらがなが36字、漢字が27字ほど含まれているということを意味します。「カタカナ語」や横文字が増えたといわれる中で、カタカナは16%に達する一方、ローマ字は4%弱にとどまっています。
これらの間には、漢字「口」とカタカナ「ロ」のように形の似た字もありますが、日本人は文字の形態、機能や並び方(例 : 口頭・サイコロ)から、文字の種類を自然に判断しているようです。機能面から見ると、仮名とローマ字は表音文字としての性質が強いものですが、それぞれ音の分析の方法が異なり、音節文字、単音文字と区分されています。ひらがなは助詞や活用語尾、接尾語などの表記に用いられる傾向をもつ一方、表意文字あるいは表語文字といわれる漢字は、漢語や名詞などの表記に用いられる傾向があります。これにより語の切れ目が明らかとなり、分かち書きの必要がないといわれています。その一方で、「ら致」(拉致)のような文字の並びは読みにくいとされます。
「録る」にある振り仮名や送り仮名も、文字体系の併用がもたらした表記法であり、読みを明確化したものといえます。同じ語でも、「奇麗」(綺麗)「きれい」「キレイ」などの表記法を選ぶことで、異なるニュアンスや意味を伝える効果が発揮されることもあります。
(笹原宏之)