テレビでは外来語が多く使われているような気がしますが、実際には、どの程度外来語が使われているのでしょうか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』15号(2002、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。
少し古いものですが、国立国語研究所が行った、テレビ放送の調査を参考にテレビにおける外来語の用いられ方を見てみましょう。この調査は、1989年4月から6月に放送されたNHK・民放の番組(コマーシャルも含む)から504分の1の比率で5分単位の標本を抜き出して、言葉の統計調査を行ったものです。
テレビにおける主たる伝達手段は音声ですので、ここでは、テレビの話し言葉での外来語の使われ方を見ていきます。図1 に延べ語数で見た場合の語種(語の由来に基づく分類。和語・漢語・外来語・混種語の区別のこと)の割合を示しました。図1 によると、いちばん多く使われているのは、和語で、69.8%、次が漢語で、18.0%でした。外来語は、4.2%でした。
テレビ放送では、ひっきりなしに外来語が流されているような気がしますが、実際には、それほど多く使われていないということが分かります。なお、この調査は、助詞・助動詞は含めていません。
番組のジャンルによっても、外来語の使用率には差があることが分かっています。表1 は、上記の調査の各標本を番組のジャンル別に分けてそれぞれ語種の割合を調べたものです。例えば、スポーツ系の番組では、外来語は約11%の使用率なのに対して、そのほかのジャンルの番組では、3%~5%台と低い値になっています。具体的にながめてみると、外来語の使用がいちばん多かった番組は、F1カーレースの実況中継番組(26.8%)、次がアイドルの登場する音楽番組(25.7%)、マラソン中継(24.1%)、ファッション番組(23.2%)と続きます。一方、標本中には、外来語の使用がまったくなかったという番組も22本ありました。そのうち、ドラマが14本(うち時代劇が9本)、ほかに小学校向けのドラマ仕立ての教育番組や相撲中継、株式ニュースなどがありました。同じスポーツというジャンルでも、F1やマラソンは外来語が多く、相撲ではそれがなかったというのは非常に対照的です。このように外来語の使用頻度は一様でなく、使われる場によってかなり違ってくることが分かります。
外来語の増加は、日本語の表現の幅を広げるという効果がある反面、単語が増えた分、記憶の負担が大きくなり、日本語を母語として育った人にとっては次々と新しい外来語を覚えなければならないという面倒なことになります。高齢化社会を迎えた現代では、世代間のコミュニケーションを阻害する一要因にもなっています。
その一方で、日本語学習者、とくに、英語を母語とする学習者には、新たに未知の単語を覚える必要がないので有利にはたらくと言えましょう。外来語の増加にともなう日本語の「難しさ」の変化については、井上史雄『日本語は生き残れるか』(注2)に解説があります。
(山崎誠)