ことばの疑問

テレビでは、どの程度外来語が使われているのでしょうか

2022.02.03 山崎誠

質問

テレビでは外来語が多く使われているような気がしますが、実際には、どの程度外来語が使われているのでしょうか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』15号(2002、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。

テレビ×外来語

回答

テレビ放送における外来語

少し古いものですが、国立国語研究所が行った、テレビ放送の調査を参考にテレビにおける外来語の用いられ方を見てみましょう。この調査は、1989年4月から6月に放送されたNHK・民放の番組(コマーシャルも含む)から504分の1の比率で5分単位の標本を抜き出して、言葉の統計調査を行ったものです。

グラフ[和語69.8%、漢語18.0%、外来語4.2%、混種語8.0%]
図1 テレビ放送における語種の割合(国立国語研究所『テレビ放送の語彙調査 1 方法・標本一覧・分析』より)
(注1)混種語とは、2つ以上の種類の異なる語種を構成要素に持つ語
テレビにおける主たる伝達手段は音声ですので、ここでは、テレビの話し言葉での外来語の使われ方を見ていきます。図1 に延べ語数で見た場合の語種(語の由来に基づく分類。和語・漢語・外来語・混種語の区別のこと)の割合を示しました。図1 によると、いちばん多く使われているのは、和語で、69.8%、次が漢語で、18.0%でした。外来語は、4.2%でした。

テレビ放送では、ひっきりなしに外来語が流されているような気がしますが、実際には、それほど多く使われていないということが分かります。なお、この調査は、助詞・助動詞は含めていません。

番組の種類と外来語の使用率

番組のジャンルによっても、外来語の使用率には差があることが分かっています。表1 は、上記の調査の各標本を番組のジャンル別に分けてそれぞれ語種の割合を調べたものです。例えば、スポーツ系の番組では、外来語は約11%の使用率なのに対して、そのほかのジャンルの番組では、3%~5%台と低い値になっています。具体的にながめてみると、外来語の使用がいちばん多かった番組は、F1(エフワン)カーレースの実況中継番組(26.8%)、次がアイドルの登場する音楽番組(25.7%)、マラソン中継(24.1%)、ファッション番組(23.2%)と続きます。一方、標本中には、外来語の使用がまったくなかったという番組も22本ありました。そのうち、ドラマが14本(うち時代劇が9本)、ほかに小学校向けのドラマ仕立ての教育番組や相撲中継、株式ニュースなどがありました。同じスポーツというジャンルでも、F1やマラソンは外来語が多く、相撲ではそれがなかったというのは非常に対照的です。このように外来語の使用頻度は一様でなく、使われる場によってかなり違ってくることが分かります。

『番組のジャンルと語種構成(延べ語数)』報道系では、和語58.3%、漢語26.3%、外来語4.0%、混種語11.4%である。 教育・教養系では、和語69.6%、漢語20.1%、外来語3.1%、混種語7.2%である。 一般実用系では、和語70.1%、漢語18.1%、外来語3.4%、混種語8.4%である。 音楽系では、和語74.4%、漢語13.2%、外来語5.8%、混種語6.6%である。 バラエティー系では、和語72.9%、漢語15.4%、外来語4.5%、混種語7.2%である。 ストーリー系では、和語74.0%、漢語15.0%、外来語3.7%、混種語7.3%である。 スポーツ系では、和語61.7%、漢語16.5%、外来語11.1%、混種語10.7%である。
表1 番組のジャンルと語種構成(延べ語数)(調査データより独自に算出)

外来語の増加とその社会的影響

外来語の増加は、日本語の表現の幅を広げるという効果がある反面、単語が増えた分、記憶の負担が大きくなり、日本語を母語として育った人にとっては次々と新しい外来語を覚えなければならないという面倒なことになります。高齢化社会を迎えた現代では、世代間のコミュニケーションを阻害する一要因にもなっています。

その一方で、日本語学習者、とくに、英語を母語とする学習者には、新たに未知の単語を覚える必要がないので有利にはたらくと言えましょう。外来語の増加にともなう日本語の「難しさ」の変化については、井上史雄『日本語は生き残れるか』(注2)に解説があります。

(山崎誠)

書いた人

山崎 誠

山崎誠

YAMAZAKI Makoto
やまざき まこと●国立国語研究所 言語変化研究領域 教授。コーパス開発センター(併任)。
日本語の語彙を中心に計量的研究を行っています。語彙の計量的(統計的)な性質はコーパスの普及にともない、研究が進んでいますが、まだ未解明の点も多く、理論的な整備は今後の課題と言えます。また、シソーラスの構築など語彙に関する言語資源の開発も行っています。

参考文献・おすすめ本・サイト

  • 国立国語研究所 編(1995)『テレビ放送の語彙調査 1 方法・標本一覧・分析』 秀英出版
    ※下記にPDF版が公開されています。
    国立国語研究所学術情報リポジトリ「テレビ放送の語彙調査 1 方法・標本一覧・分析」
    http://doi.org/10.15084/00001281
  • 井上史雄(2001)『日本語は生き残れるか(PHP新書)』 PHP研究所(注2)