括弧の使いわけはどうすればいいですか。
目立たせたい情報か、目立たせたくない情報か、によって括弧(かっこ)を使いわけましょう。
まずは、どのような括弧があって、どういう内容が括弧の中で使われているか、ということを考えてみたいと思います。
みなさんは、普段どのような括弧を使っていますか。
最初に思いつくのは、かぎ括弧と丸括弧(「パーレン」や、単に「括弧」とも言う)だと思います。かぎ括弧「 」は、1. の例のように文をくくると会話文であることを表します。これは、小学校の国語科の教科書にも書かれているので、みなさんもご存じだと思います。ですが、次の2. から4. までの例のように、かぎ括弧は会話文であること以外を示すことができます。
2. では論文の題名に、3. はメタ的な語(地の文とは異なる、概念的な語の使い方)に、4. では、強調したい語にそれぞれかぎ括弧が使用されていると考えられます。このような使い方は、学校では習わないものです。
では、それ以外にどのような括弧があって、どのように使われるのでしょうか。以下の表に括弧の種類と名前、括弧の中で使われやすい内容を簡潔にまとめてみました。
これらは、多く使われる括弧を取りあげたもので、そのほかにも[ ]や《 》など、場合によってさまざまな括弧の使用が見られます。このように、括弧の種類はさまざまですが、どの括弧を使わなければならないか、というようなルールは存在していません。つまり、書き手が読み手にわかりやすく示せるように試行錯誤している、というのが現状です。
ですが、括弧の機能を考えてみると、最初にお答えしたように、情報を目立たせたいか、目立たせたくないか、ということで使いわけができると思います。以下では、一例として隅付括弧とパーレンがどのように使用されているかを見ていき、考えてみたいと思います。
以前、私はビジネス文書の研究をしており、クラウドソーシングにおける発注文書を分析していました。この発注文書の見出し28,896件を調査した結果、上位3位の括弧は以下のとおりでした。
最も多く使用されていたのは、【 】(隅付括弧)で約62%、次に多かったのは( )(丸括弧)で約26%、「 」(かぎ括弧)は約8%のみ、という結果でした。さまざまな括弧があることは先ほど述べましたが、ビジネス文書においては、これら3種類の括弧だけで全体の約96%を占めていることがわかりました。では、最も多くみられた隅付括弧の実例を見てみましょう。
隅付括弧は黒い部分が他の括弧よりも多く、非常に目につきます。ですので、上の2例のように、用件を端的に表す表現を隅付括弧のなかに書くと、読み手に内容がすぐにわかります。これは、発注文書の見出し以外にメールでも多用されています。実際に、私に届いている直近のメールを確認してみたところ、以下のような隅付括弧がありました。
このように隅付括弧を使うことで、情報を目立たせることができ、どういう類のメールなのかが本文を読まずともわかると思います。
目立たせるための括弧があれば、目立たせないための括弧もあります。それは、丸括弧です。丸括弧は、地の文にすると、冗長となる情報を書くことによって、文をスッキリ見せることができる符号です。以下の7. では、「1 階のホール」の場所の詳細が述べられています。また、8. では、急には来訪しないことを、昔のテレビ番組に例えて冗談のように言っています。
このように、地の文に書くと複雑になってしまう情報や、わざわざ地の文に書くほどでもないことは、丸括弧を使って書くとよいと言えるでしょう。
話は変わりますが、地の文と丸括弧があるとき、みなさんはどこに句点をつけますか。
以下に、さまざまな丸括弧と句点の組み合わせの例を示してみました。みなさんは普段どのように句点をつけますか。
もしかしたら私が示した例以外の方もいるかもしれません(ちなみに私は9. の句点のつけ方をします)。このように、括弧と句点の組み合わせには、あいまいな部分が存在することがわかります。
こうしたなか、令和4年1月7日に「公用文作成の考え方(建議)」が建議され、この括弧と句点の問題が取りあげられ、まとめられています(ちなみに、この「公用文作成の考え方(建議)」は、約70年前に示された「公用文作成の要領」が時代に合っていないことから新たに示された公用文の書き表し方の原則をまとめたものです)。この文書において、括弧と句点についてまとめられている箇所を引用してみます。
エ括弧の中で文が終わる場合には、句点(。)を打つ。ただし、引用部分や文以外(名詞、単語としての使用、強調表現、日付等)に用いる場合には打たない。また、文が名詞で終わる場合にも打たない。例)(以下「基本計画」という。) 「決める。」と発言した。
議事録に「決める」との発言があった。「決める」という動詞を使う。
国立科学博物館(上野) 「わざ」を高度に体現する。オ文末にある括弧と句点の関係を使い分ける。文末に括弧がある場合、それが部分的な注釈であれば閉じた括弧の後に句点を打つ。二つ以上の文、又は、文章全体の注釈であれば、最後の文と括弧の間に句点を打つ。「公用文作成の考え方(建議)」での句読点や括弧といった符号についての記述(p.4)
今回紹介した括弧と句点の組み合わせに関する部分は2 番目の「オ」の部分です。使いわけのポイントは括弧内の文が「部分的な注釈」か「二つ以上の文、又は、文章全体の注釈」というところです。「公用文作成の考え方(建議)」には、解説(「(付)「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説」)があり、その中に実例が載っていますので、以下に引用します。
文末に括弧がある場合、それが部分的な注釈であれば閉じた括弧の後に句点を打つ。例)当事業は一時休止を決定した。ただし、年内にも再開を予定している(日程は未定である。)。さらに、二つ以上の文、又は、文章全体の注釈であれば、最後の文と括弧の間に句点を打つ。例)当事業は一時休止を決定した。ただし、年内にも再開を予定している。(別紙として、決定に至った経緯に関する資料を付した。)「(付)「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説」における文末にある括弧と句点の関係の例(p.17)
いかがでしょうか。「二つ以上の文」はともかく、「注釈」が「部分的」か「文章全体」かというのは、場合によって解釈が異なるので、句点のつけ方の基準としては一義的ではないように思えます。そのためか、「解説」には、以下のように注釈があります。
なお、一般の社会生活においては、括弧内の句点を省略することが多い。解説・広報等では、そこで文が終わっていることがはっきりしている場合に限って、括弧内の句点を省略することがある。例)年内にも再開を予定しています(日程は未定です)。「(付)「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」解説」における文末にある括弧と句点の関係の例(p.17)
ですので、基本的には9. のようにすればいいことになります。実は、そのほかにも括弧と句点の組み合わせについて問題があるのですが、ここでは割愛します(気になる方は、「句読法、テンマルルール わかりやすさのきほん ―― 第10回 公用文における句読点」ひつじ書房ウェブマガジン『未草』(https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/2022/11/10/punc10/)にまとめてありますので、ご覧ください)。
いかがでしたでしょうか。括弧は目立たせたり、逆に目立たせなかったりするために使う、と考えるとよいでしょう。隅付括弧【 】は、目立たせるための括弧、丸括弧は目立たせないための括弧です。括弧を使うことで、会話文、引用、注釈、強調などであることを示し、読み手に伝えることができます。なお、注意点ですが、括弧は使いすぎると効果が薄くなり、何を伝えたいのかがわからなくなるので、気をつけたほうがいいでしょう。
今回紹介した以外にもさまざまな括弧がさまざまなところで使用されています。街中などで括弧がどのように使われているか観察してみると、面白い傾向が見られるかもしれません。