ことばの疑問

「~を注意する」という言い方は、「~に注意する」が正しい言い方ではないでしょうか

2024.03.21 井上優

質問

時々「~を注意する」という言い方を見聞きするのですが、「~に注意する」が正しい言い方ではないでしょうか。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』14号(2001、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。

騒いでいる子供「を」/「に」注意する(をとにを比較する画像)

回答

「注意する」は、「物事に注意を向ける」という意であれ(例(1))、「人に注意を与える」という意であれ(例(2))、「~に注意する」の形が一般的です。

  1.  株式投資信託を選ぶときは何注意すればいいの?(Finance@nifty)
  2.  レストランで騒ぎまくる、または騒いで遊んでいる子供親が注意しないのはなぜか?(Yomiuri On-Line 大手小町)

しかし、実際には、次のように「~を注意する」の形で用いられた例もしばしば目にします。

  1.  エアコンを安全に使用するには何注意したらいいですか。(コジマ電気エアコンQ&A)
  2.  人様のお子さん幾度となく注意した経験上、感じたことを追加させてください。(Yomiuri On-Line 大手小町)

インターネットで「何注意すればいい」と「何注意すればいい」の両方をキーワードとして検索すると、後者の用例がかなり見出せます。これだけで結論を出すことはできませんが、「~を注意する」という言い方はけっこう使われているようです。

「配慮する/協賛する」も、「~に配慮する/~に協賛する」が本来の言い方ですが、「~を配慮する/~を協賛する」とする例も時々目にします。

  1.  情報公開に当たってはこの点配慮してもらいたい。(総務庁ホームページ)
  2.  人気の高まりつつある日本女子サッカーリーグ(Lリーグ)公式戦協賛し、(沖電気ホームページ)

「~を注意する/~を配慮する/~を協賛する」という言い方を不自然に感じるか否かには個人差がありますが、少なくとも、次のような例で「を」を用いるのに比べれば格段に自然に感じられると思います。

  1. 衝突する。/ ×壁衝突する。
  2. 景気影響する。/ ×景気影響する。
  3. 会社の発展尽力する(貢献する)。/ ×会社の発展尽力する(貢献する)。

つまり、「~を注意する/~を配慮する/~を協賛する」は、少なくとも「あってもそう不自然なことではない」くらいの言い方ではあるということです。動詞の中には、「表面さわる/表面さわる」、「水分の補給心がける/水分の補給心がける」のように、「に」「を」の両方が使えるものがありますが、「注意する/配慮する/協賛する」はそれに準ずる性質を有するといえます。

この背景には、「注意する」「配慮する」に近い意味を表す動詞(動詞句)の中に、「~を~する」という形をとる動詞があることがあります。(3)(4)では、「注意する」がそれぞれ「~をきちんと考慮に入れる」、「~をたしなめる」に近い意味で用いられていると考えられます。(6)でも、「協賛する」が「~を支援する」くらいの意味で用いられていると考えられます。「~を配慮する」という言い方が生ずるのも、形の上でも意味の上でも似ている「考慮する」が「~を考慮する」という形をとるからでしょう。

近い意味を表す動詞「~を~する」の例として、例3,例4,例6を図化したもの

使われる格助詞が変化した例としては、「~そむく→~そむく」という例がよく知られています。「~を注意する/~を配慮する/~を協賛する」という言い方が、「に→を」という変化の過程にあることを示すのか、それとも単なるゆれにすぎないのかは、今のところは何ともいえません。ただ、現状においては、「~に注意する/~に配慮する/~に協賛する」という言い方を使った方がよいとはいえます。「に」の方がより多くの人に自然な表現として受け入れられると考えられるからです。

しかし、その一方で、「~を注意する/~を配慮する/~を協賛する」といった言い方が生ずるのもまんざら理由のないことではないという視点も必要です。私たちは「本来はこう言う」ということを考えながら、ことばを使っているわけではありません。あってもそう不自然ではないことばの変化やゆれを、「本来の姿と違う」というだけの理由で「正しくない」とすることは、ことばと上手につきあう上で必ずしもプラスに働かないということは常に意識すべきでしょう。

書いた人

相席で黙っていられるか

井上優

INOUE Masaru
いのうえ まさる●日本大学 文理学部 教授。
専門は現代日本語の文法・意味ですが、妻が中国人ということもあり、日本語と中国語の対照研究もおこなっています。対照研究とか異文化間コミュニケーションとか言うと大げさに聞こえますが、要は「ものは考えよう」ということです。詳しくはプロフィール写真の本をごらんください。

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